みなさん、漫画家の荒木飛呂彦さんをご存知でしょうか?
荒木さんの漫画『ジョジョの奇妙な冒険』は、全世界で人気を博しており、その累計発行部数は1億部を超えるという偉業を達成しています。(もはや、想像できないぐらいの数字です)
そんな荒木さんの書籍やインタビューを読むと、我々ビジネスパーソンと同じような苦労を味わい、また今の成功を掴み取るまでの様々な工夫をされてきたことが分かります。
この記事では、荒木さんのマインドセット、思考様式、仕事術について考察したいと思います。
漫画家 荒木飛呂彦も売れるまで苦労していた
1970年代後半、荒木さんが仙台市から列車に乗って東京の出版社に漫自作漫画の持ち込みを始めた頃の話です。
当時は無名で実績もない荒木青年を待っていたのは、厳しい現実でした。やっと編集者に取り合ってもらっても、なかなか漫画を読んでもらえなかったそうです。
「(編集者が)封筒からほんの少しだけ、漫画原稿を出してそのまま戻すんです。編集者からすると、毎日毎日、持ち込みがあるわけですから、うんざりしてる。『ああ、この手の漫画ね。読まなくても分かるよ』みたいな。これが東京か、大人の厳しさなのかと思いましたね。」
(出典:日本経済新聞 11月18日 漫画家 荒木飛呂彦さんインタビュー(赤塚 佳彦))
こういった事例は、我々ビジネスパーソンでもよく遭遇するのではないでしょうか?
上司やマネジメント層に、何か新しい企画書を持っていっても、『目新しさがない』とか、今までにも似たような提案はあった、などと突き返されてしまうケースです。
自分が考えたアイデアは、得てして、ほかの誰かも考えている可能性が高いものです。
競合との差別化を意識し、独自性を追求する
なかなか編集者に評価してもらえなかった荒木青年は、自分だけではなく、競合である他の漫画家も見渡し、自分のポジションを見つめ直します。
「まず最初の1ページをどう描くべきか、デビューできた漫画家と自分とでは何が違うのか必死に分析しました」。
ここで陥りがちなパターンは、他の漫画家を研究すると、その漫画家のやり方が『正解』に見えてしまって、そのパターンに引きずられてしまうケースです。
我々ビジネスパーソンも、アイデア勝負をするときに、他のライバルたちのアイデアを見ると、なんだかそれがよさそうに見えてしまうことがあります。
しかし、荒木青年は、他の漫画家たちの『模倣』には陥らず、オリジナリティー溢れる漫画を作りあげることになります。
それは、荒木青年には、『伏線があり、それを回収しながらオチに向かうというミステリー要素を含んだ漫画を描く』という強い意志があったからです。
ジョジョは、ご都合主義ではなく、知恵と工夫で困難を乗り越えていくストーリーが最高に面白い
「ジョジョの奇妙な冒険」が連載された当時、少年ジャンプでは、「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」などのバトル漫画が全盛期を迎えていました。
現在のバトル漫画にもその系譜は受け継がれていますが、「強い敵が出てきて、それを倒すと、さらに強い敵が出てきて、、」という、強さを軸にしたイタチごっこストーリーです。
例えば、主人公がピンチに陥ると、謎の力が働いて急に強くなり、敵を圧倒して倒してしまう、というストーリーです。
たしかに、爽快感はあるものの、私にとっては『ご都合主義』を感じることも多々ありました。
ところが、私が「ジョジョ」を読んだ時に衝撃を受けたのは、ピンチになっても、都合の良いことは起きなかった点です。
主人公や仲間たちが自分たちの知恵と工夫で窮地を脱していく姿に、とても心を動かされたことを覚えています。
「神様が助けてくれるとか、魔法の剣が落ちてくるとか、都合のいいことは起こらない。困難を切り開いていくのは人の力なんです。だからこそ人間は素晴らしい」
荒木さんの作品を見ていると、味方に限らず、敵にもその人間味を感じます。生き生きとしています。
それは、漫画という架空の世界だからといって『ご都合主義』を持ち込まず、人間の持つ信念、努力、知恵、工夫、といった点を描き切ろうとする意志が見え隠れするからかもしれません。
荒木飛呂彦さんの「なぜ?」思考こそが、面白いストーリーを作る原動力
荒木さんが描くストーリーが奥深く、面白い理由の1つに、「どんなモノゴトからも、その裏に隠れるストーリーを探ろうとする思考様式」があると思います。
以前、ストーリーテリングについて調べていた時に読んだ本に、目から鱗の荒木さんのインタビューがありました。
「何でもいいんですよ。食事の時になぜこの人はみそ汁からいくんだろう。なぜたい焼きを頭から食べるんだろう…みんなと、そういう議論をしたいんですよね。(中略)だから何でも謎に”してみる”っていうことかなぁ」
どんなことにも疑問を持って、その裏側にある背景を想像してみることで、面白いストーリーができるという考え方です。この内容だけでも、この本を買った価値があったな、と思ったほどです。
通常、私たちがストーリーを作るときは、その生い立ちからゼロベースで積み上げていきがちですが、荒木さんは、逆だったわけです。
まず、今を語ってしまって、『実は過去に、、、』とか『なぜなら、、、』という風に掘り下げていくのです。そうやって、登場人物をどんどん深掘りしていって、魅力的な人間味を出していくアプローチです。
そんな荒木さんの思考様式が無意識に働いていたシーンがあります。
出版社のインタビューの時も手元にあったお菓子のパッケージを見て、『なんでこのロゴになったんだろう。なにか意味があるはずなんですよね』と呟かれたそうです。
あらゆるものの背景にあるストーリーを探ろうとする姿勢こそが、まさに、ジョジョの奇妙なストーリーを支えているのだと思います。
規則正しい生活が好奇心を育み、好奇心が新しいアイデアを生みだす
漫画家と聞くと、締め切り間近ではアシスタントと連日徹夜して、、というようなイメージを持ちますが、荒木さんはそういった生活とは無縁で、週休2日の規則正しい生活を長年維持されているようです。
「生活がめちゃくちゃだと、好奇心が失われてしまう。規則正しい生活があってこそ、ここまで続けてこられたと思うんです」
たしかに、生活が安定していないとメンタルにも悪い影響が出てしまい、未知の分野に興味を広げるモチベーションが湧きにくくなります。
そして、好奇心や他のことへの興味が薄れていくと、次に待っているのはアイデアの枯渇です。荒木さんは自身の著書『荒木飛呂彦の漫画術』で、以下のように述べられています。
アイディアが尽きるというより、自分の興味が尽きるからアイディアがなくなるのだと思います。よいアイディアは、自分の人生や生活に密着しているのですから、興味がなくなってしまえば生まれなくなるのです。
(出典:荒木飛呂彦の漫画術/集英社)
「好奇心を持つこと」、そして、「そのために規則正しい生活を送ること」、これは我々ビジネスパーソンが常に新しいアイデアを持って仕事に取り組んでいくうえで、肝に銘じておくべきことではないでしょうか。
まとめ: 漫画家 荒木飛呂彦からビジネスパーソンが学ぶこと
ここまでの内容を簡単にまとめます。
- 荒木さんは、編集者に持ち込み漫画を見てもらうために、1st view(最初の1ページ目)について、デビューできたマンガ家と自分との違いを必死で分析し、売れるための道筋を探った。(マーケティングの視点)
- 荒木さんは、当時のトレンドだった敵も味方も強くなり続けるテンプレートを模倣せず、「伏線からオチに繋がるミステリー」というオリジナリティーを貫き通した。(競合との差別化)
- どんなモノゴトからも、その裏に隠れる背景を想像してみる「なぜ?」思考こそ、面白いストーリーを作るコツ。(ストーリーテリング)
- 規則正しい生活が好奇心を育み、好奇心が新しいアイデアを生み出す。好奇心がなくなると、アイデアは枯渇する。(アイデア創出)
いかがでしたでしょうか?
荒木さんの仕事への取り組み方は、我々ビジネスパーソンにも転用できる点が多いのではないでしょうか。
最後に、荒木さんのこんな一言で締めたいと思います。人生と仕事が強く繋がっているからこそ、面白いストーリーが描けるのだと感じます。
「趣味は? と聞かれるとないんですよ。できれば漫画のことだけ考えていたい。漫画は僕の人生そのもの。ずっとジョジョを描き続けていきますよ」