優秀な上司やマネジャーは、なぜ部下に敬意を払うのでしょうか?
この記事を書いている筆者は、日本で数十人チームのプロダクトマネジャーなどを経験し、今(執筆時: 2020年2月)はアメリカでグローバルリーダー/マネジャーの近くでファイナンスをしています。
これまでの日本・アメリカでの部下経験、そして上司経験(アメリカ人の部下を育てています)から、上記のテーマについて考察したいと思います。
この記事が、今現在、部下を持っているマネジャーや将来のマネジャー候補であるあなたの助けになれば幸いです。
部下に敬意を持って接するとは、どういうことなのか?
部下に敬意を持って接することは、上司(マネージャー)として成功するために最も重要なことではないでしょうか?
では、そもそも、部下に敬意を持って接するとは、どういうことを意味するのでしょうか?
「部下に敬意を持って接する」というのは、相手を「自分の所有物」と考えるのではなく、「一人の人間」として対等に接すること、だと私は定義しています。
パフォーマンスの良いチームや上司・部下の関係を見ていると、そのリーダーや上司は必ず、メンバーに対して「一人の人間として」対等に接していることに気がつきます。
日本企業では、未だに「部下を所有物(自分の手駒)」と捉えている上司・マネジャーがいるように思います。
例えば、「雑用は部下の仕事」という理論で、自分が面倒だなと思う雑務を部下に投げることに何の違和感も持たない上司です。
私は新入社員として現在の会社に入った時から、この「部下を所有物」として扱う日本の上司の風習に、ずっと疑問を持ち続けてきました。
もちろん、これが社会というもので、これが日本の会社で生きていくためのルールだから仕方がないこと、と理解したうえで、進んで雑用も引き受けてはいました。
ただ、今、アメリカに赴任してきてみて、日米という比較ができるようになり、そして、全世界の従業員を引っ張っていくリーダーやマネジャーたちを間近でみて感じたこととして、
やはり、自分が感じていた疑問は正しかった、と思わざるを得ないのです。
【事例1】とあるグローバルプロダクトリーダーの話

例えば、私が一緒に仕事をしているグローバルプロダクトリーダーの話です。
彼女は、「こんにちは、Ippo. 調子はどう? この前のあなたの○○はとても助かったわ。これからもよろしくね」と、普段の会話から言ってくれますし、そのリーダーは、プロダクトチームメンバー全員に、同じような態度で接しています。
もちろん、そのリーダーはただ単に「敬意を払っている」だけなのではなく、仕事のディスカッションでは、ガンガン自分の意見を主張するし、メンバーとも激しく意見を交わします。
正直な話、初めてそのプロダクト会議に出た時には、『なんだかすごいパワフルな女性で怖そうだな』と思ったのですが、よくよく仕事をしてみると、
「私がリーダーなのだから、私のいうことを聞きなさい」というような肩書きを使ったトップダウンの命令は全くありませんでした。
それよりも、誰よりもプロダクトと顧客のことを考えていて、「なんとかして、このプロダクトを世に出したい。そのために、みんなで知恵と力を合わせよう」という情熱をもち、そしてメンバーの1人1人に対して、ものすごく気遣いをしてくれるリーダーだったのです。
だからこそ、メンバーたちは、そのリーダーについて行こうと思うし、自分の仕事にコミットして、結果を出そうと最大限頑張るようになるのです。
こういうリーダーがもっと日本にも出てきて欲しい、、と思いました。(同時に、自分も将来、こういうリーダーになって行かねば、と心を新たにした次第です)
【事例2】私のアメリカの上司の話
私のアメリカの上司は、仕事面ではとても厳しいです。スピードとクオリティの両面で求めるレベルが高いですし、部下に振った仕事の進捗が遅いとすぐにフォローアップが入ります。
手を抜こうにも、抜くことができません。
ですが、部下たち(私含め)は、その上司に圧倒的な信頼を寄せています。
なぜなら、その上司の人間性と上司力がとにかく素晴らしいからです。
例えば、その上司は私やチームメンバーたちに、事あるごとに「あなたは大事なチームの一員よ」とか、「I’m always behind you(私はあなたの味方だから)、何かあったらなんでも相談しなさい」という声かけをしてくれます。
また、私に大きなプロジェクトを依頼する時でも、業務命令という形ではなく、ちゃんと理由と期待を込めた上で、「あなたをこの仕事にアサインしたいと思っているのだけど、受けてくれるかしら?」というように、私のことを尊重した上で聞いてくれます。
さらに、仕事上で大きな問題が見つかった時も、決して部下を責めることはせず、一緒に解決策を考えようとしてくれます。
どこかの国の上司のように、「なんで今まで分からなかったんだ! お前のミスだ!」というような叱責をすることはありません。(しかも、それが部下のミスとは言い切れなくても、お前が悪い!と言い切る上司もいますからね)
なぜ、こういった違いが生まれるのかというと、それは、部下を一人の「人」として接するという考え方が根底にあるからです。
もちろん、アメリカ人の全員がそうだという話ではありません。
自然淘汰された結果、そういうマインドを持った人しか出世できない仕組みになっているという単純な話です。
アメリカの人事評価では、この部下マネジメントという点はとても重要視されるポイント担っているのです。(この点は、日本企業も見習うべき点だと思います。オペレーションができるからと言って出世させて問題になったケース(部下を潰したケース)は、私の会社でもたくさん見てきました)
ハーバードビジネスレビュー:敬意はリーダーシップに勝る
2014年のエネルギープロジェクトとハーバードビジネスレビューのレポートによれば、「敬意」は他のどのリーダーシップ行動よりも従業員の安全、信頼、集中力に大きな影響を与えるとのことです。
さらに興味深いことに、そのレポート曰く、敬意を払うリーダーのもとで仕事をした従業員は、以下の項目で高いエンゲージメント効果を得られた、とのことです。
- 仕事に対する満足度:63%アップ
- エンゲージメント:55%アップ
- 集中:58%アップ
- 組織にとどまる可能性:110%アップ
相手に敬意を払うということは、部下の成長や業績へのインパクトはもちろん、人材マネジメントの観点からも、非常に大きな貢献を果たしてくれる、ということです。
というのも、会社における重要な課題の一つとして、「人材確保」という点があり、これがHRを常に悩まし続けているからです。
その意味で、従業員のエンゲージメントを高めて、離職率を下げてくれるリーダーは非常にありがたい存在なのです。
逆を返せば、部下を潰してしまう上司は、最もダメな上司だと言えます。
パワハラ、セクハラ、モラハラなど、様々な理由がありますが、元気だった部下を精神的に追い込んでしまう上司は、上に立つべき人間ではないのです。(人間的にも、企業運営の観点からも)
部下を潰してしまう上司の根本にあるのは、「相手への敬意の欠如」だと言えるのではないでしょうか。
まとめ:部下とは「人」として対等に付き合う

私は決して、日本の上司がアメリカの上司に劣っていると言いたい訳ではありません。
実際に、私がこれまで師事した日本の上司でも素晴らしい上司はいました。例えば、私がプロダクトマネジャーをしていた時の上司です。(以下記事の最後の項目に出てくる上司です。)
ただ、伝統的な日本企業で働く同僚からは、部下を「手駒」として扱うような上司がいることを聞くことも多く、とても残念な気持ちになります。
また、部下だからと言って、名前を呼び捨てで読んだり、部下の気持ちを考えずに、いじったり、笑いの対象にしたり、という話を聞くたびに、とても悔しい気持ちになります。
最近ではやっとハラスメントという考えが普及して、「いけないこと」という認識になってきましたが、そもそも、「なぜ、いけないことなのか?」という根本を理解していない人たちがいるのが日本の問題だと思うのです。。(ハラスメントになって怒られるからダメだ、と冗談混じりに言っている人を見ると、もう言葉も出ません。。。)
この記事を読んでくださっている方は、こういう話にアンテナを張っている方なので、全く問題ないと思います。
本当に読んで欲しい人は、そもそも問題意識を持っていないので、気づきようがないというジレンマがありますが、、、これは仕方なさそうです。
とにかく、この記事がこれからの日本の上司・マネジャー候補の方にとって、頭の片隅に残るメモになればこれ幸いです。