コミュニケーション能力が高い人は、どんな切り口・視点を持って仕事をしているのでしょうか?
私がこれまで一緒に仕事をしたシニアマネージャーやプロジェクトリーダーたちのコミュニケーションを分析すると、5つの切り口に注意を払っているように思います。
ただし、長年の経験の中で、もはや反射神経のように研ぎ澄まされているようで、端から見ると、無意識かつ瞬時に判断しているように見えるものです。
この記事では、それらのマネジャー・リーダーたちから学んだ、さまざまな関係者と協働しながら仕事を前に進めていくためのコミュニケーションの切り口を考察したいと思います。
コミュニケーション戦略 -5つの切り口・視点とは

どのシニアマネージャーやプロジェクトリーダーたちも、『コミュニケーションは目的を達成するための手段』だと考えています。
そもそも、なぜコミュニケーションするの?
というクエスションに対して、彼らは『誰かに何らかの行動を起こしてもらいたいから』と答えます。
彼らは、コミュニケーションをすることで、人に行動を促そうと意図しているわけです。たとえば。
- 部下やプロジェクトメンバーたちのモチベーションを高めて、より高い成果をあげてもらうように促したり、
- 経営陣に掛け合って、自分が思う方向に組織を動かしたり、
- 人が足りなかったら、他部門に掛け合って、人事異動を促したり、
というように。
とはいえ、要求レベルが上がってくると、どれも一筋縄ではいかない話になります。
だからこそ、彼らはどうやったら自分の思う方向に人が動いてくれるか、ということをさまざまな角度で考えてます。
その結果、意図的であれ、無意識的であれ、以下の5つの切り口に分けて、効果的なコミュニケーションを考えるようになります。
- 誰が(発信者)
- 誰に(受信者)
- 何を(伝達内容)
- どんな形で(伝達様式)
- どのようなチャネルで(伝達ルート)
マーケティング分野では、これらをコミュニケーション戦略とかコミュニケーション・ミックスと呼んだりしますが、今回はビジネスパーソンの日々の業務に落とし込んだ形で説明したいので、敢えてそれらの用語は使っていません。
では、一つずつ解説していきます。
誰が(発信者)
例えば、あなたのカウンターパートが、なかなかメールの返信をしてくれず、業務が滞っているとします。(社内の担当者だったり、取引先の担当者だったり、相手の動きが遅いケースです)
あなたからは、すでに何度か催促メールをしましたが、音沙汰なしです。
そういう時、自分よりも職位や権限が高い上司から催促してもらう、という手段があります。
私も相手の動きが遅い時は、自分の上司に提案して、上司から連絡してもらいます。
そうすると、先方の担当者のパフォーマンスが低いだけが原因の時は、すぐにメール返信と謝罪が返ってきて仕事がスムーズに行くようになります。
また、そもそも連絡してこなかったのが会社としての戦略だった場合は、先方の上司が返事を返してきて、根本的な原因がわかったりします。
このように、単なる担当者の原因か、会社としての方針(牛歩戦術)なのかを炙り出すうえでも、誰を発信者にするか、という点はまず最初に考えるべき点です。
このように、相手に行動を起こさせるために、“誰から発信させるか?” について考えると、より成果を上げやすくなるということです。例えば、
- 自分から発信する
- 同僚から発信する
- 上司から発信する
- 上司の上司から発信する
- 第三者(例えば、その分野の権威)に頼んで発信してもらう
仕事ができる人は、この『誰から発信すれば、相手が行動を起こしてくれるか』という点を常に考えています。
誰に(受信者)
コミュニケーションは、”誰にアプローチするのか?” という点も重要です。
先ほどの例で言えば、自分のカウンターパートに催促しても埒があかなければ、自分の上司から相手の上司に催促するというコミュニケーションが有効だったりします。
自分サイド(発信側)の『誰が』を考えることも大事ですが、相手サイド(受信側)の『誰に』を考えることも成果をあげるためには重要です。
例えば、
- 自分のカウンターパートに連絡する
- 上司のカウンターパートに連絡する
- 社外のキーステークホルダーに連絡する
- 社内に広く連絡する
この誰に対して発信するか? という点は、この後の項の何を伝達するか? にも密接に関係しています。
実際のビジネスシーンでは、誰に&何を発信するか? という問いとして、セットで考えます。
何を(伝達内容)
コミュニケーションの目的は、人を動かすことです。
となれば、何を伝えるか? は、人に動いてもらうためにも、とても重要なポイントです。
人によって、行動を起こしたくなるスイッチは違うものです。
行動を起こすことで新しいものを得たいと考える狩人型のタイプには、ベネフィットを特に強調して伝えれば、動いてくれる可能性が高まります。
右脳型の人には、体験のイメージやシミュレーションを提供するのがよいですし、左脳型の人には、数字やデータを提供するのが効果的です。
つまり、相手に応じて、押すスイッチを使い分けるということです。
スイッチの事例としては、例えば以下のようなものがあります。
- ベネフィットを強調する
- リスクを強調する
- 裏付ける確証やデータを提示する
- 体験のイメージやシミュレーションを提供する
- 小さな成功体験を準備する
- 環境や習慣に配慮する
上記のようなスイッチの使い分けをするためにも、相手が何に興味を持っていて、どんなタイプかを注意深く観察しておくことが重要です。
どんな形で(伝達様式)
伝えたいメッセージがきまったら、今度はそのメッセージをいかに効果的に届けるかを考えます。
たとえば、投資の意思決定の場面を例にあげると、大抵の場合は、データや図表に基づいたゴリゴリのロジックでメッセージを届けることが多いですが、
一方で、その案件と出席者によっては、相手の感情面にアプローチした方がうまくいく場面もあります。
つまり、相手が持っている興味や関心、外的・内的な環境によって、最適な内容は変わっていきます。
例えば、数字ではやらなきゃいけないことがわかっているが、社内の文化的・歴史的背景が原因で二の足を踏んでいる状況であれば、過去に同じような苦境を乗り越えた偉人のエピソードを使ったストーリーテリングが最後の一押しになるかもしれません。
ここまで紹介した通り、伝えたいメッセージを届けるアプローチは、大きく3つに分類できます。
- 左脳に働きかけるロジカルアプローチ(データ、グラフ、統計、判例など)
- 右脳に働きかけるビジュアルアプローチ(写真、イラスト、絵、シンボルなど)
- 心に働きかけるエモーショナルアプローチ(ストーリーテリング、メタファー、たとえ話、神話、名言など)
1と2は、みなさん会社で使っていると思いますが、3の心に訴えるストーリーテリングなどは、使う頻度が落ちてくるのではないでしょうか。
以下の記事でも詳しく紹介していますが、とても効果的なデリバリースキルなので、意識して使うと良いと思います。
どんなチャネルで届けるか?(伝達ルート)
最後は届けるチャネル、すなわちメッセージの配達ルートです。
一般的なものをあげていくと、以下のようなチャネルです。
- 対面
- 電話
- ビデオレター
- メール
- 社内SNS/社外SNS
- プレスリリース
- 他社の広告媒体
これらの社内から社外までのあらゆるチャネルのうち、どれがメッセージの温度感を損なわずに相手に届けられるか、またはどんな組み合わせが良いか、という点を考えていきます。
実際には、誰に届けたいか?(受信者)に合わせて選んでいくことになると思います。
例えば、メールや書面だと身構えてしまって、ロジカルに理論武装して守りに入るタイプの部門長が私の会社にいるのですが、その部門長と込み入った話をするときは必ずface to face(対面)を選択します。
そして、感情面に働きかけて、説得するように気をつけています。
一方で、ロジカルな話ができなくて、face to faceになると、すぐに話も脱線して、かつ感情的になる人には、敢えてメールや書面で連絡します。
そうすると、感情面を抑えて、じっくり考えてもらう時間を与えられるので、多少マシな回答が返ってくるからです(じっくり考えてもロジックがおかしい場合もありますが、だいぶマシになります)
よく、何事もface to face(対面)がいい! という人がいますが、必ずしも対面がよいというわけではないと思います。
いずれもケースバイケースで、最大限の効果を得られるチャネルを選ぶことが大事だと私は思います。
他には、私の会社では、社内SNSが盛んに活用されているのですが、そこではトップマネジメントが従業員向けに積極的にメッセージを発信しています。
メールよりも、もう少し砕けたメッセージを伝える手段として、トップマネジメントも重宝しているようです。
これらもどんなメッセージを誰に伝えたいか?を考えたうえでの効果的なチャネル選びの一例ではないでしょうか。
まとめ: 明日からのコミュニケーションに向けて
最後にまとめたいと思います。
- コミュニケーション能力が高い人は、コミュニケーションは相手を動かすための手段であると考えている。
- 彼らは相手を効果的に動かすために、意図的に、または無意識的に、5つの切り口を考えている。
- 5つの切り口とは、誰が、誰に、何を、どんな形で、どんなチャネルで、届けるか?という点。
- これらの切り口で、自分のメッセージを最大化して相手に届け、自分の思う方向に動いてもらうように働きかける。
まとめてしまうと、よくある内容だなと思ってしまうかもしれません。
ただ、これらの5つの切り口を深掘りしていくと、本当に奥が深く、我々ビジネスパーソンの日常業務のパフォーマンスを決定づけるものだと私は思います。
実際に、仕事ができる部長さんやプロジェクトリーダーを間近で見ていると、これらの5つの切り口を瞬時に考えて、組み合わせて、ベストなコミュニケーションを選択しています。
例えば、『この件は〇〇さんから、〇〇さんに向けて話しておいてください。できれば対面で』とか、『この件は、私がアメリカの〇〇さんに通しておくので、あなたもアメリカの〇〇さんに話をしておいてください。必要なら、一緒に電話会議しましょう』というように。
いかがでしたでしょうか?
コミュニケーション能力をさらにブラッシュアップする方法として、1つ1つのコミュニケーションについて、この5つの切り口で、どんな組み合わせが一番効果が高いかを考えていくと、とてもよい訓練になるのと思います。
明日の仕事から試してみてはいかがでしょうか。
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