政府主導で始まった「働き方改革」により、『残業時間を減らしなさい』というフレーズはどこの会社でも言われるようになりました。
たしかに、残業時間は数値として測定しやすいので便利ではありますが、昨今のグローバル経済で重要なことは、残業時間の多い・少ないではなく、「労働生産性が高いか、低いか」なのではないでしょうか?
私の会社では、日本人たちが残業時間ゼロをゴールに、管理職も一般部員も邁進して行く中、アメリカ人たちは、バリバリと昼も夜も仕事をしています。
彼らの頭の中にあるのは、「労働生産性」です。『短い時間で、どうやって最大の成果をあげるか?』です。
せっかくの働き方改革という面白いチャンスがあるので、各人が一度、労働生産性について考える必要があるように思います。
この記事では、私の会社やアメリカ人同僚たちの事例を交えつつ、そんなことを考察していきます。
『残業時間を減らそう』は誰のための言葉か?
働き方改革によって、私の会社のみならず、多くの会社で、部下の残業時間が部長・課長たちのKPI(Key Performance Index)になったことだと思います。
すなわち、部下の残業時間が減れば、部長・課長たちのボーナスが増える、という意味です。
そのため、『残業時間を減らそう』というフレーズは、部下たちのみならず、部長や課長たちにも興味・関心ごとになっています。
ここで出てくるのが2つのタイプの上司です。
- 部下の残業時間だけ見て、一喜一憂するタイプ
- 組織全体の業務を見直しつつ、部下の業務分担を考えるタイプ
私の会社では、両方のタイプがいましたが、1. の数字だけ見ている上司は、ただ単に『残業時間を減らすように』という指示しか出さず、部下の努力に丸投げをしていました。
一方で、2. のタイプの上司は、既存業務の棚卸しと優先順位付けをしたうえで、部下の業務分担分担を見直していました。
既存業務の棚卸しとは、例えば、今やっているルーチン業務の目的に立ち戻って、
- 本当に必要な仕事なのか?
- 今後も続けるべきかどうか?
- 一部でも廃止できないか?
- 違うやり方に置き換えられないか?
という観点で、1つ1つ精査していくアプローチです。こういう精査をすれば、そもそも仕事自体を無くせるので、一気に残業時間を減らすことができます。
そして、本当にデキる上司は、既存業務を減らして終わりではなく、そこに新たな価値を生み出す新規業務を付け加えたうえで、組織全体のパフォーマンスアップを図ろうとします。
なぜなら、働き方改革の1つの目的は、生産性向上であり、残業時間を減らすのはその手段の1つに過ぎないと理解しているからです。
もちろん、この考え方は、上司だけでなく、部下たちも理解するべき内容だと思います。
『残業時間を減らせと言われたので、仕事終わってないけど帰ります』では、時間給の単なるアルバイトと同じです。
ビジネスパーソンであれば、今までとやり方を変えて、短い時間で同程度のパフォーマンスを発揮するように工夫する必要があります。
『残業時間を減らそう』というのは、部下のワークライフバランスのためにあるのではなく、課長や部長のボーナスのためにあるのでもなく、
『我々、ビジネスパーソン1人1人の時間あたりの生産性を上げて行こう』という個々人のための言葉なのではないでしょうか?
さて、ここで視点をグローバルに広げて、労働時間について考察したみたいと思います。
働き方改革? 残業って何? アメリカのエグゼクティブは猛烈に働いている現実。
日本人の労働時間は、国際的に見ても高い水準にあると言われています。
さて、実際のデータはどうなっているのでしょうか?
OECDの統計データを時系列グラフにまとめてくれているサイト様を見つけたので、以下、引用させていただきます。(引用元:図録 労働時間の推移(各国比較))

日本(濃いめの青線)を見ていただくとわかりますが、1990年頃までは2,000時間/年と、韓国に次いで世界2位の労働時間でした。
ところが、最近になると、1,710時間/年まで落ちてきており、むしろアメリカの方が1,780時間/年と高い数字になっています。
もちろん、この数字だけを鵜呑みにして、日本と海外の労働時間を断定的に比較することはできません。なぜなら、日本と海外では労働時間の定義や測定方法が違うでしょうし、統計データの母集団も違うはずだからです。(つまり、厳密にはapple to appleの比較になっていない)
とはいえ、肌感覚としては、日本とアメリカの労働時間データについては、ほぼ合っているように思います。
私の会社の事例を挙げると、アメリカ人の同僚はだいたい定時でオフィスから帰ることが多いのですが、彼らは自宅で家族とご飯を食べた後に、アジア諸国や他の国とのテレカンを入れたり、仕事をしたりしています。(これは、日本で言うところの残業に該当するのでしょうが、彼らは年俸制なので、そういった意識はないと思います)
つまり、日本人がオフィスに残って数時間仕事をしているからと言って、アメリカ人よりも残業時間が多いとは言えない可能性があります。(あくまで、アメリカを例に挙げており、ヨーロッパは国によって、働き方がだいぶ異なります。)
これは同僚の事例でしたが、アメリカ人のエグゼクティブになると、もう一段、ギアチェンジします。
以前、アメリカの女性エグゼクティブに、日々の業務スケジュールを聞いたときのことです。
彼女は、毎日6-7時にオフィスに来ます。(朝の交通渋滞を避けるため早めに来る人が多い)早朝から昼まで会議がビッシリ入っているので、まずはそれをこなすそうです。
そして、昼ご飯は食べずに、昼休みはジムで1時間ほどパンプアップし、それから午後の業務に取りかかります。
夕方は定時で帰宅し、家族と食事。夕食後は、アジアとのテレカン(私のチームメンバーとはいつもアメリカの夕方/日本の朝にミーティングのため)をやって、その後仕事が残ってればこなす、という話でした。
ちなみに、その女性エグゼクティブは、孫娘がいると言っていたので50代後半だと思われます。
60歳間近のおばあちゃんと言ってよい年齢にもかかわらず、このような働き方をしているわけです、アメリカでは。
アメリカ人の同僚や上司たちと仕事をしていて感じるのは、上昇志向がある人は成果を出すために猛烈に仕事をするし、「出世よりもプライベート」という人は、労働時間もほどほど、という「自分の生き方」に沿ったワークスタイルを選んでいることです。
翻って、日本では、出世は年功序列という風潮がまだまだ根強く、成果を出しても出さなくても、同じように給与が上がっていく会社が多いようです(特に、内資系の会社です)。
そういう会社ほど、全員で残業をしていたりしますし、今回のような国からの大方針が出てくると、一転して「全員、残業せずに帰れ!」というような画一的なアプローチが出てくるケースが多い、と感じています。
こういった点を掘り下げていくと、根深いところに、業績評価制度や昇進/昇給制度、そしてそれを運用する企業文化・風土に行くつくのですが、この記事ではここまでにしておきます。
大事な点は、残業時間という数字だけを見て盲目的に進めるのではなく、まずは自分たちのビジネスについて正面から向き合って、海外の働き方も視野に入れた上で、ビジネスと人的リソースをどうしていくべきかを考えることなのではないでしょうか。
働き方改革は、マインドセットを変えるチャンスである
誤解をされないように、最初に断っておくと、働き方改革について、私は賛成の立場です。
そして、「残業時間を減らす」という測定可能な指標を持ってきた点も、目に見える形で結果を出せるので賛成です。
ただし、目的が置き去りにされて、「残業時間を減らす」という点だけが考えなしに実行されてしまう点だけは懸念しています。そして、これが今回、記事にした意図です。
「働き方改革」という大方針と「生産性向上」という目的、そして「残業時間を減らす」という手段は、我々ビジネスパーソンにとって、仕事のやり方を見直すチャンスです。
- 今までのルーチン業務を見直して、不要な仕事を断捨離するチャンスであり、
- 日本人にありがちなオーバークオリティ、オーバーサービスをやめるチャンスであり、
- そして、「お客様は神様だ」とか、「クライアントには最高の品質・サービスを納入すべき」と言った、消費者/委託元のマインドも自ら変わるチャンスである、
と考えています。
特に、最後の商品やサービスを受け取る側のマインドが変わる必要があると考えています。
例えば、広告代理店がブラックなのは、理不尽なクライアントの要求に応えないといけないからです。
「お客様は神様だ」という考え方は、一見すると綺麗にみえますが、サービスの提供側がブラック化する危険性を孕んでいます。
ビジネスは対等であるべきです。Win-winであるべきです。
もはや、日本経済もグローバルに物やサービスを売っていかないと立ち行かなくなっています。
そんなグローバル規模のビジネスを広げて行くためには、日本の古き良き習慣・文化は残しつつも、時代の移り変わりに応じて、ある程度、自分たちのマインドセットも変えていく必要があるのではないでしょうか。(残業時間という数字を追う前に、一度、マインドセットまで立ち戻ってみましょう、という意図です)
まとめ: ビジネスパーソンが働き方について考えること
働き方改革は、我々ビジネスパーソンが、自分の時間あたりの労働生産性について向き合ってみる良い機会なのではないでしょうか?
実は、2014年のOECDデータでは、男性に焦点を当ててみると、日本人は世界1位の労働時間という結果が出ています。(これも鵜呑みにはできませんが、ただ、世界の中でも男性労働時間が多い傾向にはあると言えるでしょう)

(出典:働き方改革ラボ | 日本の労働時間は世界に比べて長い?短い?本当の問題点とは)
だからこそ、もっと、短い時間で、同じ成果をあげることができないか? という点については、やはり考えて行くべき課題だと思います。グローバル社会で戦って行くためにも。
たとえば、身近な事例を挙げていくと、
- そのパワーポイント資料にアニメーションをつける必要はあるのか?
- パワーポイント資料の体裁に時間をかける必要なんてないのでは?
- そもそも、パワーポイント資料を使わず、メールに箇条書きだけで表現できないか?
- そもそもメールも不要で、口頭だけの説明で目的を達成できないか?
などなど、よくよく考えてみると、 もっと手間をかけない方法があるかもしれません。
これは自分の仕事だけに限らず、誰かに何かをお願いする時も同じです。
- 本当に、その資料を相手に作ってもらう必要があるのか?
- 本当に、相手にその仕事をしてもらう必要がるのか?
- 今、自分が求めているサービスは、本当に必要か? 我慢できるレベルではなかったか?
などです。
こういった点について、部下も、上司も、上司の上司も、全員が意識していく必要があるように思います。(結局、上司の上司が『いつも通りのパワーポイントでよろしく!』なんて言っていたら、何も変わりませんからね)
そして、残業時間を減らして、時間当たりの生産性が高まったのなら、次の新しい付加価値を生み出す仕事に時間を使うとしましょう。
これこそが、生産性を高める本質であり、このグローバル社会でライバルたちと戦って行くための武器なのですから。