『情報は発信する人のところに集まる』という言葉を聞いたことがありますか?
社会人に成り立ての頃、上司にこんなことを言われました。
『情報の方から勝手に自分に集まってくる仕組みを作れ』、と。
当時は一体どうやってそんな仕組みを作ればいいんだ、と思っていました。が、今はその一つの方法が『徹底的に有益な情報を発信し続けること』だと思うようになりました。
なぜかというと、冒頭に述べた通り、情報は発信する人の所にこそ、自然に集まってくるからです。これが勝手に情報の方から自分に集まってくる、ということだと思うのです。
この記事では、そもそも、なぜ情報は発信者に集まるのか? ということに触れつつ、情報発信によって得られるメリットを紹介していきたいと思います。
なぜ情報は発信する人のところに集まるのか?
まずは、なぜ情報は発信者に集まってくるのか、という点です。
簡単にいうと、以下の3つが繰り返されていくことで、情報が発信者に集まっていく仕組みになっているからです。
情報発信をしているとその分野に詳しいと認知される
みなさんの職場の中で、よく情報発信をしている人を想像してみてください。
その人は発信している分野について、社内でも一目置かれている方ではないでしょうか?
情報を発信していると、その内容についてはもちろん、その周辺分野についてもある程度詳しそうだなと周りから見られるようになります。
特に、発信内容がニッチであればあるほど、その分野の専門家としてみられるようになります。また、発信内容について社内でも情報がなかった場合などは、最初は周りと情報レベルにあまり差がなかったとしても、情報発信していくことでその分野の第一人者的な立場になっていくということもあります。
例えば、先日の話ですが、私がいち早くグローバルのカウンターパートから、日本の事業部としてやる必要があるアクティビティの情報を入手したので、それを日本の関係者に情報共有した時です。
たまたま少し早く情報入手したのと、情報の出所に近いグローバル担当者から直接話を聞けていたために、私が一番詳しい人間ということで、色々な部門や関係者から自然に情報が集まるようになりました。
つまり、このように情報発信していくうちに、その分野の第一人者になっていく(成長していく)ということもあるわけです。
詳しいと思われるので、疑問や困り事を心配される
先ほどの事例ですが、積極的に関係者に情報発信していると、『この場合はどうやったらいいの?』という質問や『グローバルからこんなリクエストが来たんだけれど、どうすればいいかな?』というような相談がくるようになりました。
そういう質問や相談は、だいたいが他の誰かに聞かないとわからないものだったりします。
ですので、そういった相談内容を別の担当者に問い合わせたり、グローバルの担当者に聞いたりして、その結果をフィードバックして、というように自分から積極的に疑問や困り事を解決していきました。
疑問や困り事を解決することでさらに詳しくなる
そうやって、なんとか疑問や困り事を解決していると、どこからか聞きつけたのか、別のところから同じような相談がくるようになります。
また、同じ疑問点が多いようだったら、自分から関係者に事例共有という目的で発信していきます。
そうすると、関係者から『この人はこの分野に詳しそうだ。何か困ったら聞きに行こう』というように思ってもらえるわけです。
また、関係者が何か最新情報を入手した際には、気を利かせてくれて、『こんな情報が回ってきたんだけど、知ってますか?』というように、情報シェアしてくれるようになります。
そして、いただいた情報をまた関係者に発信して、というサイクルの繰り返しです。
こんな風にして、情報発信をしていくと、加速度的にその分野の第一人者になっていくというプロセスです。
ただ、もちろん気をつけておかないといけないのは、情報発信により他の方に貢献する、という気持ちを忘れてはいけないことです。これ無くしては、誰も信頼してくれないからです。
情報発信で得られる3つのメリットとは?
上段で、なぜ情報は発信者に集まるのか、という点は理解いただけたかと思います。
でも、『そもそも、なんで情報発信しないといけないの? わざわざ時間を割いてまで、誰かのために教えてあげるなんて、全くメリットがないんじゃない?』と思う方もいるかもしれません。
これは鋭い質問で、この点こそが、情報発信をするうえで一番重要な点であり、また意識するべきポイントだと私は思います。
さっそく、以下で3つのメリットを話していきたいと思います。
自分の情報感度(無意識の情報収集センサー)がグレードアップ
まず最初は、自分の無意識の情報収集センサーをグレードアップできる点です。
みなさんは、今までまったく興味がなかったことでも、誰かから『最近は、◯◯が流行っているらしいよ』と言われたら、その後は自然に街中や電車の中吊り広告などで『◯◯』というキーワードが目に飛び込んでくるようになった、という経験はありませんか?
これは人間の脳の無意識の学習行動によるものです。一度、自分の脳の中にキーワードが登録されると、脳は勝手にそのキーワードに関連した情報を拾いあげるようになります。
ちょっと余談になりますが、化学者であるアウグスト・ケクレがベンゼン環(亀の甲羅型)の構造を着想した時の有名な夢エピソードをご存じですか?
夢の中に蛇が出てきて、自分のシッポをくわえて回転を始めた。 そこへ球が飛んできて跳ねまわり始めた。最初は大きい球に小さい球が1つずつくっつく。 やがて大きな球は小さい球を複数くっつけ、もっとも多い球は4つになった。 それが回転する蛇と一緒に回り出し、つながって鎖を作っていく。 すると蛇は運動をやめて消えた。
エピソードの中の「大きい球」は炭素原子、「小さい球」は水素などの原子を意味しています。そうして、夢で起きた鎖が以下のように現実(ベンゼン環の化学構造式)にになったわけです。

夢というのは、まさに脳の無意識下の活動です。たまたまヘビの夢を見ていたら、今まで集めてきた膨大な情報を脳が無意識下で統合した結果、今まで思いつけなかったアイデアを閃いたというのが、このケクレのエピソードです。
上記はまさに蛇足なエピソードだったかもしれませんが(笑)、ここで言いたかったことは、脳の無意識の情報収集センサーをうまく使うためにも、積極的な情報発信によって自分の脳にキーワード登録させる、ということです。
受け手に感謝されることで、相手からの信頼が積み上がる
積極的に情報発信していると、受け手から『ありがとう。参考になりました』と言われることがあります。
こんな感謝の言葉を1人からでも貰えれば大成功です。その裏には、言葉にはしないけれど感謝している人が何人もいるはずです。
情報発信に対して明確に感謝の言葉を示してくれる方は多くはありませんが、実際には目に見えないところで、あなたへの信頼は積み上がっているものです。
そして、信頼が積み上がって行くと、あなたが困っている時に快く協力をしてくれるようになります。
私はお酒が弱くて、飲みニケーションも本来的にあまり好まないタイプなのですが、入社当時の上司に『いかに飲み会を通じて人的ネットワークを築くことが大事か?』ということを刷り込まれたおかげで、今まで幾度となく無理して会社の飲み会の場に参加してきました。(当時の私のポリシーは、誘われた飲み会は全部参加、でした)。
しかし、最近思うのは、そういった飲み会で築いたネットワークよりも、日常業務の中で相手のことを考えながら情報発信していき、そこから信頼関係を築いていったネットワークの方が、何十倍も自分の業務をサポートしてくれるということです。
ちなみに、皮肉なことに、入社時に飲みニケーションを主な武器にしていた上司・先輩・同期たちは自然淘汰されていってしまいました。
その背景には、私の会社が急速にグローバル化が進み、従来の日本的な飲みニケーションの影が薄くなっていったという理由もありますが、結局は「飲み会の付き合いが良い」よりも「仕事で信頼ができる」という方がより良い関係ができるということだと私は感じています。
鮮度の高い情報が他の人から入ってくる
返報性の法則というものをご存知でしょうか。
セールスやマーケティングの世界でよく知られている『チャルディーニの法則』のうちの一つなのですが、『人は親切にされると自分も恩返ししてあげたくなる』というものです。
例えば、スーパーで試食させてもらった時に、美味しいという理由よりも無料でサービスを受けたという理由に購入した、というような事例です。
情報発信をしていると、これと同じようなことに遭遇します。継続的に情報提供していると、今度は相手からもホットトピックやこちらが欲しかった情報などを持ってきてくれることがあります。
また、情報に限らず、その分野に詳しい人などを紹介してくれたり、と何かの形で恩返しをしてくれるようになります。
もちろん、最初からそういった見返り目当てでやっている人はすぐに分かるものなのでオススメしません。
何らかの見返りを求めるのは、「ギブ&テイク」であり、それは「感謝」という心のやりとりではなく、「対等な価値交換」というビジネスだからです。
大事なのは、あくまで見返りは期待せずに、人のために良かれと思って情報発信していくことです。
これは言うなれば、ギブ&ギブ&ギブです。
とにかく、見返りを気にせず、相手のために尽くすという気持ちでやっていくと、いつか相手から何らかの形で思わぬものをもらえるかもしれません。
情報発信をためらってしまう3つの理由
さて、ここまで情報発信の意義とメリットをお伝えしてきました。それでも、まだ発信することに躊躇してしまう人はいるかもしれません。
そこで、情報発信をためらいがちな人によくある三つ理由を紹介したいと思います。
貴重な情報を教えることを損と感じている
まず、最初はこれです。情報を誰かに教えてあげると損をすると感じてしまうことです。
このように考える人は、私の会社でも結構います。その背景には色々な思惑があるとは思いますが、例えば、『他の人が知らない情報を自分が持っている』ということにちょっとした優越感を感じたり、『苦労して集めた情報やノウハウが他人に渡ると自分のポジションを奪われるんじゃないか』と不安に感じたり、というように。
そう思う人はやはり情報発信をネガティブに考えてしまいがちです。とても、もったいないです。情報は発信していくことで、実はもっと多くの情報が自分に返ってくるのに、、、と。
また、自分のポジションを脅かされると不安に感じる必要も全くありません。ほとんどの人は情報をもらってもそこから先の『行動を起こす』というステップには進みません。したがって、自分が情報を集めて、広げて、誰かの役に立とうというマインドセットを持っている限り、他の人はどうやっても追随できないものです。
こう考えると、他の人の役に立つ情報を持っているなら、発信しない方が損なわけです。
私なんて、何か面白い情報を仕入れたら、誰が知りたそうかな?と真っ先に考えます。一種のサプライズプレゼントみたいなものです。きっと喜んでくれますから。
発信できる情報を持っていないと思い込んでいる
次は、情報発信するという行動の前に、そもそも発信する情報なんて持っていないと思い込んでいる場合です。『自分の持っている情報なんてみんな知っているし・・・』というように過小評価してしまうケースです。
でも、過小評価する必要はありません。情報というのは、その人の体験や考え方によって、いくらでもオリジナリティ溢れるものになります。
例えば、この記事がまさにそうです。
情報発信がいかに有意義か?というテーマで書いていますが、ググってみると、いくらでも情報発信関連の記事は出てきます。それこそ、使い古されたネタと言ってもいいかもしれません。
それでも、私は自信を持ってこのテーマの記事を書いています。それはなぜか?
それは、テーマ自体は使い古されたものですが、その中にあるコンテンツは私のオリジナルの体験や私の考えだからです。(どこからかコピーしたものではないです)。
私がやっているのは、『既存のテーマ』と『自分の体験・考え方』の掛け合わせです。特に、自分しか書けない独自体験こそが、世界で一つしかない情報であり、きっと誰かの役立つ情報になっている、と信じて書いています。
ですので、もし自分は大した情報を持っていないと思うのであれば、『既存の情報』 X 『自分の体験・考え方』という掛け算を思い出してください。
どんな情報でも結構です。そこに、あなたの考えや体験を添えてあげるだけで、それは立派なオリジナルの有益な情報になります。
発信した情報を否定されないか心配してしまう
三つ目は、情報発信をした後のフィードバックを気にしてしまう、という場合です。
例えば、自分の意見を他の人に否定されたり、問い詰められたりして、嫌な思いをすることを想像するあまり、情報発信をためらってしまうケースです。
これは過去に誰かに自分の意見を否定されたことがある人にありがちです。と書きつつ、まさに私自身がこのケースに陥ってしまった事があります。
以前の上司なのですが、私が発言した内容や書いたメールについて、一言一句チェックをしてありがたい指摘をしていただいたことがあります。そこには教育的観点もあったのですが、緩急や重み付けというものはなく、全てをチェックされて訂正させられると、人は萎縮してしまうようで、もう何をやろうにも『また指摘を受けて、やり直しになるんだろうな』という超ネガティブシンキングになってしまいます。
ちなみに、後からわかったのですが、これは脳科学の領域では『恐怖条件づけ』と呼ばれる立派な学習反応のようです。(全くありがたくない学習反応ですが)
恐怖条件づけ (Wikipedia)
通常、恐怖を引き起こすことがないレベルの光や音(条件刺激)と恐怖を起こす電気刺激や痛みなど(非条件あるいは無条件刺激)を組み合わせることにより、条件刺激のみの提示で恐怖反応(すくみなど)を引き起こす学習反応を言う。 様々な生物で知られており、危険を避けるための学習行動の一つである。
不幸にも、以前の私と同じような「自分の意見を発信するのが怖い」という状況に陥ってしまったら、まずはあなたの絶対的な味方と言える人と話してください。その人はきっと否定しないはずです。
また、職場でもそういう人を一人でも見つけてください。きっと、どこかにいるはずです。
意見というものには正解はないです。本来、賛否両論があるはずです。ですから、いつも否定されるということはありえないわけです、論理的には。それをいつも否定するということは、その人にはバイアス(偏見)が必ず入っています。
その偏見を取り除くためにも、あなたの味方(肯定的に捉えてくれる人)を探し、私もハマってしまった「恐怖条件づけ」を外すのが一番良いと思います。
まとめ:積極的な情報発信のススメ
長くなってしまったので、一度、まとめます。
- なぜ情報は発信する人に集まるのか? => 情報発信をしていると、周りから疑問や相談を持ちかけられる。それを解決していると自然にその分野に詳しくなる。その結果をまた発信する。すると、また疑問や相談がくるようになり・・(以下繰り返し)
- 情報発信によるメリット => まず、自分の無意識化の情報収集センサーが強化される。また、受け手側の信頼が積み上がっていくことで、強いビジネス上の関係ができる(飲みニケーションで築いた関係より強い)。そうこうしているうちに、今度は相手から貴重で鮮度の高い情報が入ってくるようになる。
- 情報発信をためらってしまう理由 => 情報発信を損と捉えている(情報発信による本当のメリットを知らない)。発信できる情報を持っていないと思い込んでいる(既存のテーマ X 自分の経験・考え方 でOK)。発信された情報を否定されないか心配(恐怖条件づけから自分を解放する!)。
いかがでしたでしょうか。
この記事では、情報発信が、情報の受け手のみならず発信者にとってもいかに有意義であるかを書かせていただきました。
情報発信によるメリットは短期的には見えにくいかもしれません。ですが、見てる人は見ていますし、こっそり感謝してくれる人は必ずいます。
そんな人のためにも、ためらう気持ちを抑えて、思い切って、積極的に情報発信していってみてはいかがでしょうか?
この記事があなたのビジネスをよりよくするものになったら、これ幸いです。