先日、大学の後輩たちから仕事術というテーマでインタビューを受けた際に、「会議を始める前に議事録を書くといいよ」という話を出したら、「どういうことですか???」と、とても驚かれたので、せっかくなので記事にしておこうと思います。
この記事では、自分で会議を開くことに苦手意識を持っている方や、より効果的にチームマネジメントをしたいと思っている方に向けて書いています。
<筆者(Ippo)の紹介>
筆者は現在(執筆時2022年2月)、グローバル企業の駐在員として、アメリカの会社に赴任しており、約400億円の研究開発予算を管理するファイナンス・ポートフォリオ・リードとして、日々、シニアマネジメントやプロダクトリーダーと働いています。
行動→結果ではなく、結果の予想→行動、という順番
私が若手社員にアドバイスするものの中に、「会議を始める前に議事録を書いておくといいよ」というものがあるのですが、ほとんどの人が「え? どういうことですか???」と驚きます。
むしろ、この反応が楽しみで、こんな伝え方をしている感がありますが、簡単にいうと、「事前に会議の流れと結果を予想しておきなさい」という助言です。
これをアクションとして落とし込んだものが、「会議前に議事録を完成させておく」というわけです。
これまで日本とアメリカの両方で、いろいろな会議をやってきて、そして他の方の会議を見てきた中で、心地よい会議と心地がわるい会議があることに気づきました。
心地よい会議は、ファシリテーターが会議の最終ゴールを明確に理解して、話が脱線していたらすぐに本質に戻して、ぜったいに会議の目的を達成しようとしている会議。
心地がわるい会議は、ファシリテーターすらも議論がどこに向かっていくのか分かっておらず、参加者の手綱も握れず、時間だけが過ぎていって結局何も決まらず、また同じような会議を次もやることになる会議。
違いは何かと言うと、会議の前に、会議のゴールが見えているかどうか。ゴールから逆算して何をすればいいのかファシリテーターが理解できているかどうか。
つまり、よい会議というのは「会議の結果」にフォーカスしていて、わるい会議というのは「会議をすること」が目的になっている場当たり的なものと言えます。
では、どうしたらよい会議を開けるのかというと、これこそが、冒頭で述べた「会議を始める前に議事録を書いておくといいよ」というアドバイスなのです。
議事録を書く際は「結論」から書かざるをえないので、強制的に「会議の結果」に意識を向けさせることができます。
ですので、会議に苦手意識がある方や、ファシリテーションに不安がある方は、「会議の前に議事録を書き上げてみる」ことをおすすめします。
何を隠そう、私もプロジェクトマネジャー時代はこのアプローチに大変お世話になりました。
ちなみに、議事録の話を例示していますが、これに限らず、何かの実験をするとか、研究をするとか、人に会うとか、ありとあらゆることに通用する考えです。
- 会議を始める前に、議事録を書き上げる
- 研究を始める前に、研究論文を書き上げる
- 出張に行く前に、出張報告書を書き上げる
- 人に会う前に、感謝の手紙を書き上げる
などなど。
会議の前に先に議事録を書いておく3つのメリット
さて、私が「会議の前に議事録を書き上げる」ことを最初に始めたのは、プロジェクトマネジャーになってからです。それまでは、正直に言うと、とんでもなく場当たり的な会議運営をしていました。
コミュニケーションが壊滅的に苦手な私が、30人規模の会議をファシリテートをして、最終的には社内のプロジェクトマネジャーの中でNo.1のプロジェクト運営評価を得るようになった理由は、ここにあると言っても過言ではありません。
会議の前に先に議事録を書いておくメリットは以下の通りです。
- 議事録を書く過程で、会議のゴールと必要な参加者が明確になる。
- 事前に議事録が頭に入っているので、30人規模の会議でもスムーズにファシリテートができるし、会議中にアクションアイテムまで決める余裕が持てる。
- 会議当日中に議事録を送付できるので、メンバーにすぐ行動してもらえる。
いかがでしょうか。順番に解説していきます。
議事録を書く過程で、会議のゴールと必要な参加者が明確になる。
実りのある会議にするためには、最終ゴールに向かって、参加者全員のインプットをあつめて意思決定していくことが望ましいです。
事前に議事録を書こうとすると、この2つを必ず意識することになります。そして、結論を出すためには、「あの人のインプットを事前にもらっておかなければな」と気づかせてくれるのです。
いわゆる根回しというものです。アメリカでは、Socializationと言って、非常に重要なステップです。
根回しというとイメージが悪いように見えますが、そんなことはなく、ゴールにたどり着くために必要なインプットを集める工程の一つです。
たとえるなら、カレーを作る前に、スーパーに行ってじゃがいもを買ってくるというのと同じです。美味しいカレーを作りたければ、じゃがいもを買いますよね? それと同じです。
ただし、これが実際の仕事になると、そういう準備不足の場面にとてもよく遭遇します。
じゃがいもを買わずに、材料不足の状態で会議に突入してしまっていることが多々起きているのです。
みなさんもこんな会議の場面に遭遇したことはありませんか?
- おれはそんな話は聞いていない、と参加者の一人が起こっている場面。
- いきなり会議の場でそんなこと言われてもすぐに答えられない、という担当者。
- そういう話なら、〇〇さんを巻きこんでおくべきだった、という人。
これらはすべて、事前の根回しが足りなかったり、必要な人を議論に巻き込めていなかったりする場面です。材料不足、ということですね。
つまり、根回し(Socialization)というのは、何かの意思決定を行うために必要な材料集め、という位置づけなのです。逆にいれば、必要なキーパーソンに事前に話しておけば、あとは会議で議論して決めるだけなのです。
優秀なプロジェクトマネジャーは、この事前準備に時間をかけています。だからこそ、彼らはやろうと思えば会議をする前に議事録を書き上げることだって可能なのです。(実際に、事前に議事録をある程度書き上げている人も見てきました)
「会議をやってもいないのに、どうやって事前に議事録を書くのか?」という質問を受けますが、逆にいうと、議事録のイメージが思い浮かんでいないというのは、何かしら準備が足りていない危険信号である、ということを認識した方がよいと思います。
事前に議事録を書くという行動は、その会議でのゴールと必要な参加者や根回しが何かをあなたに教えてくれるのです。
30人規模の会議でもスムーズにファシリテートができるし、会議中にアクションアイテムまで決める余裕ができる
数名の会議であれば、みんなが自由に発言しやすい雰囲気があるかもしれませんが、これが30人規模になると、どうでしょうか?
日本人の会議になると、ほとんどの人は積極的に発言しないでしょう。
何が言いたいかというと、会議の出席人数が増えれば増えるほど、ファシリテーターの重要性が高まるのです。
ファシリテーターは、参加者の意見を聞き、内容を理解しながら、時には参加者同士に議論させるように話題を振っていくことが求められます。
いつ、だれに、どのように議論に参加してもらって、最終的にどんな落としどころに持っていくのか? を、意見が交わされている会議中に即座に判断していかないといけないのです。
これができないファシリテーターの会議は、おそらくお通夜のような会議になるでしょう。
そして、30人規模の会議を効果的に行うには、会議中にアクションアイテムまで決めて、その場で合意してしまうことです。
よく結論を出すことだけに満足してしまうファシリテーターがいますが、それだと50点です。会議のあとのメールのやり取りで永遠とアクションアイテムを決めていくのは、とても非効率ですから。
ということで、会議中に結論を出して、さらに、アクションアイテムまで決めきるにはどうすればいいか?
もうお分かりですね、事前準備です。
事前に議事録を書いておくということは、頭の中でどのような内容が議論されて、どのタイミングで誰に話を振って、最終的にどんなアクションアイテムを参加者と合意するかまで考えるということに他ならないからです。
これができれば、会議中は自由自在に話題を振っていけるし、会議のファシリテーターとして縦横無尽に活躍できるはずです。
会議当日中に議事録を送付できるので、メンバーにすぐ行動してもらえる。
会議にて、無事に結論とアクションアイテムまでたどり着けたからと言って安心はできません。
なぜ会議をするかというと、参加者に今後の流れについて合意してもらって、行動をしてほしいからです。
彼らにすぐに行動してもらうにはどうすればよいか?
簡単です。議事録をその日中に参加者に送って、すぐにアクションに取り掛かってもらうことです。その日中に議事録を送れば、やる気がある方はすぐに動いてくれます。
これが、会議から数日経った後に議事録を送る方がいますが、数日後になるとみな興味を失っていますし、ほとんどの人は読まないです。アクションアイテムも忘れていることがほとんどです。
それは当然で、誰しも忙しいですし、日々、新しい仕事がふってきて、数日前の会議にかまってはいられないものです。
事前に議事録を書いておくとよいのは、この当日中に議事録を送るというのを可能にしてくれることです。
もちろん、実際の会議で話が違う方向に行ったとしても、そこの部分を修正すればよいだけですので、ゼロベースで書き上げるよりも簡単なはずです。
少し本題からそれますが、議事録が本当に役立つのは、なかなかアクションを起こさない人に対してです。
議事録は、たとえるなら水戸黄門の印籠のように使うことも可能で、私の場合は、議事録のアクションアイテムをスクリーンショットに撮って、
「ほら、あなたは、1週間以内にこのアクションを完了させることに合意していましたが、進捗はいかがですか」という形で、アクションを起こさない人に迫っていました(笑)
まとめ:会議の前に議事録を書き上げるメリットと方法

いかがでしたでしょうか。
上記は、プロジェクトマネジャーの会議の事例でしたが、私の今の職種であるファイナンスでもまったく同じです。
例えば、新規プロジェクトの経済性評価を行うときも、プロジェクトメンバーから数字が上がってきていなくても、自分で勝手にAssumption(仮説)を立てて、その数字でValuation Model を組んでしまうのです。
こんなの手戻りが発生してしまうから無駄だと思う人がいるかもしれませんが、それは否で、Valuation modelを組んでいく際に、どんな情報が必要なのか、どの数字に精度が求められて、何のディスカッションに注力すべきか、などを事前に把握できるのです。
そして、プロジェクトチームでディスカッションが始まったときには、自分の頭の中では、すでにゴールイメージができているので、自然にQuestionが出てきますし、そういったQuestionを投げかけているうちに、いつの間にか自分がディスカッションをリードしてしまっていた、というようなことも多々ありました。
このように、たとえあなたがプロジェクトマネジャーではなくても、どんな職種だったとしても、何人か集めて自分が会議を開く立場であれば、事前に議事録だったり、Valuation modelだったり、何らかの成果物を事前に作ってしまうことをおすすめします。
では、最後に簡単にまとめておきます。
会議の前に議事録を書き上げるメリットは、
- 議事録を書く過程で、会議のゴールと必要な参加者が明確になる。
- 事前に議事録が頭に入っているので、30人規模の会議でもスムーズにファシリテートができるし、会議中にアクションアイテムまで決める余裕が持てる。
- 会議当日中に議事録を送付できるので、メンバーにすぐ行動してもらえる。
会議前に議事録を書きあげるためには、
- 会議でのキーパーソン(議論の中心になるであろう人)を特定する
- 会議前にキーパーソンたちに会いに行って、その人の意見を聞いておく
- キーパーソンたちの意見をもとに、会議で決まりそうな結論を予想する
ということです。
特に、あなたが絶対に結果を出したいと思う会議の場合には、ぜひこのアプローチで進めてみてはいかがでしょうか。効果絶大なことは私が証明します。