この記事は、『考える前に動きなさい』や『動く前に考えなさい』と上司や先輩に言われて困っている方に向けて書いています。
この二つのフレーズは、パッと見ると真逆のことを言っているように思えるのですが、実際はどちらも同じ方向性を持った言葉なのです。
筆者は現在(執筆時2021年5月)、グローバル企業の駐在員として、アメリカの会社に赴任しており、約400億円の研究開発予算を管理するファイナンス・ポートフォリオ・リードとして、日々、シニアマネジメントやプロダクトリーダーと働いています。
先日、私が所属する事業部のプレジデントからこんなキーワードが発信されました。
Think before do that. (行動する前に考えなさい)
これはコロナ禍の在宅勤務の弊害として労働時間が増加傾向にあるので、日々の業務から無駄を省く意識を高めていこうというトップマネジメントからのメッセージでした。
アメリカでも普通にこんなメッセージが使われるのだなと驚いたのですが、それと同時に、日本では『考える前に行動しなさい』も頻繁に聞くことを思い出したので、良い機会なので私なりの考察をここで述べておこうと思います。
アメリカでは「動く前に考えろ」 vs. 日本では「考える前に動け」
日本では「頭を使う前に足を動かせ」とか「考える前に動きなさい」という言葉の方が馴染みがあると思いますが、これは日本人の傾向をよく表しているものだと思います。
日本人は過剰に相手に配慮したり、ミスを恐れる傾向があるので、それが行動のブレーキとなっていることが多いといえます。
一方、私が一緒に働いているアメリカ人たちは、一般的な傾向として行動することに躊躇はありません。とにかく行動してみて壁にぶつかったりミスをしたら、その場で謝りながら前に進んでいこうとします。
ですので、アメリカでは「考える前に動け」とはアドバイスしないのです、笑。
むしろ、言うべきは、「もうちょっと考えてから行動しましょうね」ということになります。これが冒頭で事業部プレジデントが言った「Think before do that」です。
もちろん、一般的な傾向であり、最終的には個人の特徴によって、日本人に似た動きをするアメリカ人もいますし、日本でもアメリカ人寄りの動きをする人もいます。
サッカー事例:「考える前に動け」と「とにかくシュートを打て」の共通点

わかりやすい例として、サッカーを挙げてみましょう。
ゴールを前にして横パスばかり選択をする選手に対して、チームの監督はこう言います。
「ゴールが視野に入ったら、いいからシュートを打て!」と。
これはビジネスシーンでよく言われる「考える前に動け」と同義です。
そして、選手のシュート回数が増えてくると、助言はこう変化していきます。
「考えなしにシュートを打ってもダメだ。シュートは必ずゴールの枠内に向けて蹴ろ!」です。
そして、ゴール枠内のシュート回数が増えてくると、助言は最終的にこうなります。
「シュートはゴールキーパーが取れない場所、つまり、ゴールの四隅に向かって蹴りなさい!」と。
さて、ここで、チーム監督の助言がどのように変化してきたのかを分析すると、
最初は、シュートの回数にこだわっていました。そのシュートがゴールの枠外に飛んで行ったとしてもそこは気にしません。
とにかく、シュートの試行回数を増やすこと、つまり、シュートの「量」に着目していました。
ただし、いくらシュート回数が増えたところで、それがゴールの枠外に飛んで行ってしまってはゴールの可能性はゼロです。
したがって、チーム監督は、シュートの「質」を上げていくような助言を始めます。
それが「ゴールの枠内を狙って打て!」であり、さらに言えば、「キーパーが取れないゴールの四隅を狙って打て!」なのです。
つまり、チーム監督の助言は、まずはある程度の「量」を確保することを最初のステップとし、それがクリアできたら「質」を高めるようにコーチングしていったのです。
これを、シュートの量が多い・少ないを縦軸にとり、ゴール数が多い・少ないを横軸にとった4つのエリアに分けて図解すると以下のようになります。

つまり、最終的にゴールの四隅にたくさんのシュートを入れるという最終目的にたどり着くための、
- 第一段階が、「量」に着目した「なんでもいいからシュートを打て」で、
- 次の段階が、「質」に着目した「今度は狙ってシュートを打て」なのです。
なお、シュート数が増えなければゴール数は増えないので、基本的には、右下の象限は狙いにいけません。
結論:「考える前に動け」 vs「動く前に考えろ」は対立関係ではない

上記のサッカーの事例と同じように、ビジネスにおける「考える前に動きなさい」も「動く前に考えなさい」も対立関係にあるわけではないのです。
いずれも、共通のゴールに向かうためのプロセスの一つにすぎないのです。
つまり、ビジネスにおける「質の高い結果を一定量提供し続ける」という最終目的に向かって、
量が足りていないフェーズにいる人へのアドバイスが「考える前に動け」であり、
量を質に転換していくフェーズに対してのアドバイスが「動く前に考えろ」ということなのです。
同じように、仕事の量の多い・少ないを縦軸に、仕事の質の高い・低いを横軸にとって図解すると以下のようになります。

先ほどのサッカーと同様、量が少ないのに質が高いという状態は実現が難しいので、まずは量を増やしてから質を高めるというステップを踏みましょう。
まとめ:失敗を恐れずに「量」を増やし、そして質を高めていこう

日本人の多くは、教育環境や周りの文化的背景から、行動することにリスクを感じがちです。
石橋を叩いて渡るということわざの通り、行動を起こす前に、色々と考えすぎるのです。それは良い面もある一方で、悪い面も持ち合わせています。
それは何かと言うと、新しいことを始める時にいきなり「質」にこだわってしまうという点です。
何か新しいことをやろうとする時は、最初からうまくいくことなんて稀です。難しい仕事であればなおさらです。
そのため、難しい仕事をする時は、行動の数をとにかく増やしてながら、試行錯誤をしながら前に進めていき、そこから得たフィードバックで、一つ一つのクオリティーを上げていくなどの軌道修正をしていくものです。
つまり、何か新しくて難しいことをやろうと思ったら、まずは失敗を恐れずに「量」を増やしていくしかないのです。
例えば、新人社員や若手社員にとっては、日々の業務は新しいことの連続だと思います。上司や先輩たちからすれば簡単な仕事なのかもしれませんが、若手社員たちからすれば難しい仕事です。
そんな仕事に対して、最初から質を求める必要はありません。失敗していいのです。
失敗を恐れずに、「量」を増やしていきましょう。
失敗して叱られてもガンガン前に進んでいく新人社員と、失敗を恐れてチャレンジしない新人社員がいたら、伸びていくのは前者です。
そして、後者の社員はこう言われるのです。
「色々考える前に行動してみたらどうだ?」と。
そして、行動量が足りてきたら、「行動する前にもうちょっと考えてみよう」と言われるでしょう。その時は素直に、質について考えたらいいのです。
仕事で結果を出していくには、量と質の両方を高める必要があります。
しかし、量が増えてこないと、質は高まらないということを忘れてはいけないのです。