仕事が「できる人」と「できない人」には、普段の両者の思考プロセスに大きな違いがあります。
そして、その違いは、日常の会話や言葉に現れてきます。
それが「口ぐせ(口癖)」です。
口癖を観察していくと、その人の仕事に対する取り組み方・考え方、価値観が透けて見えてきます。
例えば、仕事ができない人は「でも、」「だって、」とか「それは難しいです(時間、工数、経験などを理由に)」とか「めんどくさい」というような口癖をつい無意識で言っていたりします。
これは、自分のミスを認めたくなかったり、なるべく仕事を増やしたくなかったり、そんな後ろ向きな姿勢が言葉にまで出てしまっている典型例です。
もし、仕事ができる人であれば、「私の認識が間違っていました。それでは、○○という理解のもと、進めていきます」とか、「時間・工数などの制約条件があるものの、○○を変更する等の工夫でなんとかならないか検討してみます」など、前向きな姿勢が言葉に現れるはずです。
さて、本題のこの記事の目的ですが、これらの口癖の中でも、仕事ができる人が「必ず頭の中に思い浮かべていて、かつ、言葉に出しているであろう」ものを3つ紹介したいと思います。
私は大手グローバル企業でのグローバルプロダクトマネジャーの経験があるのですが、その中で、肌を持って感じた、最も実用的かつ重要な口癖です。
それではいきましょう。
1. そもそも、何のために○○をするの?(目的)
まず1つ目の口癖はこれです。
「そもそも、何のためにこれをやっているのですか?」です。
このフレーズはいろいろな場面で出てきますが、特に、会議などでアイデアの視野が狭まってしまった時や、具体的なアクションアイテムなどの議論に入っていった時に、このフレーズが出てくると思います。
例えば、「会社のシニアマネジメントの会議体に、30代男性向けの抜け毛予防の新商品の企画書を提案して承認をもらう」という目的のために、チームメンバーでどんな企画にするのかアイデア出しをしている場面を想像してください。
抜け毛予防という観点で、ヘアケア関連の商品アイデアがたくさん出てきます。でも、競合他社も同じような商品を持っているので、それらとの差別化という観点で煮詰まってしまっているとします。
こんな時に、「そもそも、何のために、新商品を出そうとしているんでしたっけ?」と目的に立ち戻るひと言が出てくると、その後の議論が活性化する転換点になります。
さらに、もう一歩踏み込んで、「そもそも、私たちの目的は「30代男性の抜け毛予防」ですよね?それであれば、ヘアケアではなくても、別の方法でもこの目的を達成できるのではないですか?
例えば、髪が抜けにくい体質になるような健康食品とかサプリメント。他には、大手スポーツジムと提携して、抜け毛に効果的なトレーニングプログラムの開発、などの方向性はないでしょうか?」
などです。(注:上記アイデアはこの記事のためにフィクションです)
要するに、ここでの目的は、「抜け毛が増えてきて、将来ハゲてしまうのではないかという不安を抱えている30代男性の悩みを解決すること」であるので、その方法はヘアケア商品に限らず、健康食品、サプリメント、トレーニングプログラムなど、たくさん可能性はあるというわけです。
他にも、髪は抜けても増やせばいいという観点での新しい発毛剤でもいいし、突き抜けたアイデアになると、ハゲる前提でダンディなスキンヘッドという提案でもいいわけです。
こんな風に、アイデアが煮詰まった時や方法論にばかり議論が集中してしまった時に、「そもそも、目的は何でしたっけ?」と、みんなの視点を上に引き上げることができると、良い仕事ができると思います。(会議参加者の気分を害さないように、あくまで、ふと思い出したかのような雰囲気で言うのが良いかもしれません)
2. 最後に何ができればいいの?(成果物)
次の口癖は、「最終的な成果物イメージを教えていただけますか?」です。
大なり小なり、我々は日々、上司や他部門の方から仕事を依頼されています。そして、皆さん忙しいので、仕事の指示が「○○について資料をまとめておいて」とか「○○のデータを出して」等の作業内容の指示のみであることも多々あります。
そんな時は、指示通りに作業をして、それを返答するということをよくやってしまいがちかもしれません。
そして、仕事の依頼主たちは、「本当はもうちょっと○○な資料が欲しかったのにな」とボヤきながら、我々が作成した資料をさらに加工して、最終的な資料に仕上げていたりします。
これを防ぐためには、仕事を依頼された瞬間に、「差し支えなければ、最終的な成果物イメージを教えていただけますか? そこに近づけやすい形で資料やデータを揃えておきます」と質問すると効果的です。
そうすれば、上司や他部門の方がどんな最終資料を作ろうとしているかを確認できますし、彼らの手間と時間を大幅に短縮することができます。
このたった一言が、最終的に、従業員の生産性を向上させ、会社の利益につながることになります。
3. 終わった後にどうなっていれば満足なの?(成功基準)
さて、最後の口癖です。
「最終的に、どんな状態になっていれば、私たちは満足でしょうか?」です。
これは、1の「そもそも目的は何だっけ?」と同じくらい重要な口癖だと私は思います。
そして、これを言っている人を見ると、「この人は仕事がデキる人だなあ」とすぐに信頼してしまいます。(ちなみに、これは私の元上司の口癖でした)
この口癖は、「私たちが本来、誰のために、どんな目的を持って、仕事をしているのか?」「そして、私たち自身がどんな仕事をしたいか?」を導いてくれる、大事な言葉だと思います。
具体例として、先ほどの1で説明した「会社のシニアマネジメントの会議体に、30代男性向けの抜け毛予防の新商品の企画書を提案して承認をもらう」ことを目的にしているチームを使いたいと思います。
チームメンバーは、新商品を「髪が抜けにくい体質になるような健康食品」に決定したとします。そして、この新商品の企画書を作るために、チーム一丸となって盛り上がっています。
「もっと健康食品のイメージを企画書に盛り込んだ方がいいのではないか?」とか、「髪が抜けにくい体質を裏付ける論文データを準備しておこう」とか、企画書作りに余念がありません。
さて、こういうチームの場合は、より良い企画書(成果物)を作成すれば、企画書の承認をもらえる、というロジック(論理)をイメージしているのかもしれません。
いわゆる、「Aならば、Bする」というロジックです。
しかし、これだけでは目的達成出来ないことがしばしばあります。ここで、「成功基準」という視点が活躍します。
今回の事例で言えば、シニアマネジメントから承認をもらえた状態(成功基準)を、ありありと明確にイメージできるぐらいまで明文化できると、その後のチームのパフォーマンスが大幅に向上すると思います。
例えば、以下のように。
(1)シニアマネジメントのうち、事業企画部長に、特にこの企画を面白いと思ってもらえて、実行段階でも事業企画部長からの強い後押しをもらえる状態。
(2)シニアマネジメントのうち、財務統括部長には、短期的にはコストが嵩むものの、長期的な視点では売上増加によって利益を大きく伸長させるビジネスになることを理解してもらえた状態。
(3)シニアマネジメントのうち、人事統括部長には、この新規プロジェクトに優先的に人的リソースを配分してもらえることを理解いただいた状態。
成功基準をここまで明確にすると、成果物にも良いフィードバックが得られます。
例えば、(2)を達成するためには、「長期的な視点では、大きな利益増加につながり、財務状況を改善できる」というメッセージを企画書に強調し、さらにプレゼン時は、財務統括部長の方に向いて、強いメッセージを発すれば効果的です。
(3)であれば、(1)の事業部長からこの企画書への強い後押しをもらった後に、事業部長から人事統括部長に口添えしてもらう、という方法で達成に近づくかもしれません(いわゆるステークホルダーマネジメントです)。
そもそもの目的、その目的の成功基準、目的達成に必要な成果物、これらは良い仕事をする上での、3種の神器と言えると思います。
まとめ:3つの口癖は「ODSC」というフレームワーク
さて、ここまで話してきた3つの口癖ですが、これらをまとめたフレームワークというのも存在しています。
1. Objectives (目的)
2. Deliverables (成果物)
3. Success Criteria (成功基準)
の3つの頭文字をとって、ODSCと呼んでいます。
ODSCはCCPM(Critical Chain Project Management)というプロジェクトマネジメントの考え方の一つなのですが、これを話し出すと長くなるので、またの機会に。
いかがでしたでしょうか。
1. そもそも目的はなんだっけ?
2. 最終成果物はどんなイメージ?
3. 最後にどんな状態になっていれば満足?
の3つの口癖を説明させていただきました。
この口癖が、みなさんの良い仕事につながってくれれば、これ幸いです。