みなさんは、2×2のマトリクスを日常業務で使っていますか?
使っていない方でも、日常業務で以下のような場面に遭遇したことはありませんか?
- 目の前のごちゃごちゃした事象を整理したい
- 全体像をシンプルに可視化して、周りと認識をすり合わせたい
- これから自分たちは、どこにフォーカスするべきかを明らかにしたい
こういう時に、マトリクスを使うと、驚くほど、自分の頭も、周りの頭も整理され、議論が前に進むことが多いです。
たったの4象限しかないシンプル構造なので、Fece to Faceの会議ではホワイトボードでササっと書けてしまうのはもちろん、電話会議でも喋りながらお互いに同じマトリクスを作れてしまうという便利ツールです。
この記事では、仕事の生産性をアップしてくれるマトリクスについて解説していきたいと思います。
スティーブ・ジョブズの自社製品マトリクス
最初に、スティーブ・ジョブズの有名なエピソードをお話したいと思います。
深刻な経営不振に陥っていたApple社にスティーブ・ジョブズが復帰した頃の話です。
当時のAppleは、マックだけでも10種類以上もあり、マック好きでさえも、どれが自分に合ったパソコンなのか混乱するほどでした。
そんな状況を見かねたジョブズは、Appleの製品ラインに大ナタを振るい、製品ラインナップを整理したそうです。
その当時の状況をウォルター・アイザックソンが著書に記しているので、以下、引用させていただきます。
マーカーを手にするとホワイトボードのところへゆき、大きく、「田」の字を描く。「我々が必要とするのはこれだけだ」そういいながら、升目の上には「消費者」「プロ」、左側には「デスクトップ」「ポータブル」と書き込む。各分野ごとに1つずつ、合計4種類のすごい製品を作れ、それが君たちの仕事だとジョブズは宣言した。
(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズII』(講談社、2011年))
その時のジョブズがホワイトボートに描いたマトリクスを再現すると、以下のようになります。

横軸に、一般ユーザー用、プロフェッショナル用というユーザー軸があり、縦軸にデスクトップ、ポータブルという携帯性が描かれています。
そして、このジョブズのイメージ通りに出来上がったApple社の製品ラインナップが以下です。

いかがでしょうか?
とてもシンプルかつ分かりやすい製品ラインナップだと思いませんか?
このマトリクスは、社内外のあらゆるステークホルダーとの認識統一に大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。
そして、そんな分かりやすい戦略のもと、Apple社の業績は急回復し、現在の世界トップの大企業となりました。
ちなみに、Appleファンである私はもちろん、デスクトップとポータブルの両方を購入して、このApple社の業績に貢献しております。
その他のマーケティングに使うマトリクス
このAppleの2 x 2マトリクスは、自社製品のポジショニングを整理する目的で効果を発揮しました。
同じように、マーケティングなどのコマーシャル分野で有名なマトリクスがいくつかあるので、以下で紹介しておきます。
BCGマトリクス
有名なボストン・コンサルティング・グループのマトリクスです。見たことがある方も多いかと思います。

横軸に「市場における自社製品のシェア」をおき、縦軸に「市場の成長率」をおきます。
例えば、成長率が高い市場で、かつ、自社製品のシェアが高い場合は、その事業は紛れもなく、今後の企業の主軸「スター」になります。会社としては、この「スター」にもっとも投資をしていくべきです。
一方で、スターほどは市場の成長は見込めなくても、市場における自社製品のシェアが高ければ、それはキャッシュフローを継続的に生み続ける「金のなる木」といえます。
この「金のなる木」からキャッシュを生み出し、そのキャッシュで「スター」や「問題児」に投資を回していくのが鉄則です。
アンゾフの事業拡大マトリクス
こちらはBCGマトリックスと違う点として、より自社製品の戦略にフォーカスしたマトリックスです。

横軸に「製品」をとり、縦軸に「市場」をとり、それぞれを「既存 or 新規」で分類します。
例えば、既存商品&既存市場の組み合わせであれば、「市場への浸透」を狙っていくことで、売上を伸ばそうとします(左下)。
そして、既存商品の活躍の場を増やすべく、新規市場を開拓していきます(左上)。
ところが、既存商品だけでは売上が伸ばせない場合があります。こういう場合は、新規製品を開発し、既存市場に投入していきます(右下)。
清涼飲料水やお菓子などの食品業界では、このアンゾフのマトリックスの右下(既存市場&新規製品)がよく見られます。
そして、最後は、新規製品&新規市場の「多角化」です。今までは手をつけていなかった分野に参入するケースです。
とはいえ、いきなりノウハウのない所に進出するのは、リスクや時間の観点で得策といえないので、多くの場合は、M&Aや業務提携などで他社リソースを獲得していくのが通常です。
以上のように、企業の成長戦略をとてもシンプルに表したのが、このアンゾフのマトリクスです。
クロスSWOT分析
こちらは戦略コンサルの提案書などでよくみるのが、SWOT分析です。
その中でも、以下はクロスSWOT分析と呼ばれているもので、より実務的なマトリクスと言えます。

ご覧の通り、横軸に「外的環境:機会 or 脅威」をとり、縦軸に「内的環境:自社の強み or 弱み」をとります。
例えば、左下の改善戦略で想定されるケースとして、アパレル業界のECマーケットがあります。
最近はウェブで衣料品を購入するケースが増えてきており、ECサイトのマーケットが急伸しています。実際に、ZOZOやユニクロなどはECサイトからの売上が好調です。
ECサイトに資金が流れている事業機会が訪れているにも関わらず、自社のECサイトに弱みがある会社であれば、ECサイトを改善して、利益の取りこぼしを防ぐというような戦略が考えられます。
例えば、右上の差別化戦略の事例としては、翻訳会社などが挙げられます。
最近、AIやRPA(ロボティックプロセスオートメーション)などがトレンドになってきており、今までは人がやってきた翻訳の仕事がAIやロボットに置き換えられ始めています。
そんな外的環境の脅威に対して、翻訳会社は「人だからこそできるサービス」を売りにして、AIやロボットを使った翻訳と差別化を図っていく、というようなストーリーです。
以上の話は一例ですが、このように外部環境の変化に対して、自社の打ち手を網羅的に検討していきたい時は、クロスSWOT分析が有効になります。
筆者オススメの実務で有用なマトリクス
バリューのマトリクス
これは私が最も好きなマトリックスの1つです。
特に、組織として取り組むべきイシューとその優先度を、周りに視覚的に伝えることができる点が気に入っています。

横軸に、イシュー度をおいて、縦軸に解の質をおきます。
会社の中にいると、改善するべき問題は小さいものから大きいものまで、挙げだすとキリがありません。
にも関わらず、イシュー度が小さいものに、多大な工数をかけるのはナンセンスですよね?
一方で、イシュー度が高いからという理由だけで、闇雲に取り組んでいくのも得策ではありません。例えば、「全社的なITイシューを解決するべきだ!」と言って、1つの部門の下っ端の担当者がいくら頑張っても、解決策は出てこないわけです。
これは、イシューの中には、自分たちで解決できるものと、解決できないものが混在しているからです。
そこで、イシュー度と解決策の質の両面から、「今、自分たちがどんな問題にフォーカスするべきか?」という点を可視化してくれるのが、このマトリクスです。
みんな頭の中でモヤモヤと考えてつつも、「なぜ、今、この問題に取り組むべきか?」という点を、うまく言葉で説明できなかったりすることが多いので、そういう時に、このマトリクスで整理して説明してあげると、とてもスムーズに腹落ちしてくれます。
それ以外にも、上司との期初の目標設定などに使って、「今年度はココにチカラを入れていこう!」という風に使うこともできます。
あらゆるシーンに応用が効くマトリクスなので、まだ使ったことがない方は、ぜひご自身の業務にも活用してみてください。
ステークホルダーマップ
これはプロジェクトマネジャー時代に学んだマトリックスです。
ステークホルダーマネジメントは、感覚でやっている人が多いのですが、以下のマトリクスにして明確に意識する事で、成果をあげやすくなるので、非常にオススメです。

横軸に「自分の仕事への影響度」、縦軸に「自分の仕事への関心度」を据えたマトリクスです。
このマトリクスを使って自分のステークホルダーを可視化することで、抑えておくべきキーパーソンを特定できます。
キーパーソンは、その人の仕事内容によって違いますし、仕事の進捗によっても常に変化していきます。
そのため、定期的にアップデートしていくとよりよいです。
私は使い慣れたこともあり、今はこのマトリクスを頭の中でイメージして運用していますが、誰かに説明する時や、業務引き継ぎの際は、パワーポイントにして、手渡しています。
そうすると、引き継ぎ相手も、すんなりと仕事に入れます。
もちろん、人から業務を引き継ぐときは、このマトリクスをイメージしながら、相手からキーパーソン情報を引き出して整理しています。
リスク分析マトリクス
このマトリクスもプロジェクトマネジャー時代に学んだものです。
リスクについては、無意識に対処されている人が多いと思いますが、意識的にリスク分析マトリクスで分類してみると、明確に打ち手を出せるようになるので、ぜひ活用してみてください。

横軸に「自分の仕事への影響度」、縦軸に「リスクの発生確率」をとったマトリクスです。
リスクの発生確率が高く、かつ、影響度が高い場合は、事業回収や撤退を考えるべきです。
ここで、よく迷う点が、リスクの発生確率が低いが、それが起きた場合には事業に甚大な影響が起きる場合です。
我々の身近な例で言えば、一家の大黒柱の死亡や地震による家屋倒壊などが挙げられます。
そういう確率は低いが起きると大変なことには「保険」をかけるのが鉄則です。
「保険」をかけるということは、リスクを自分で負わずに、別のどこかに「転嫁」するということです。
リスクを自分で負わないという意味では、業界の数社と共同出資して、リスクを「共有」するという手段もあります。
つまり、起きた時に大打撃となるリスクは、自分または自社だけで背負わないという点が大事なポイントです。
この考え方は、プロジェクトマネジメントでも、とても重宝する考え方です。
みなさんの日常業務でも、「発生確率は低いけれど、起きたら一大事」というリスクがあったら、そのリスクを誰かと「共有」したり、対価を払ってリスクを「転嫁」するように意識すると、面白い打ち手を考えられるのではないでしょうか。
マトリクスの作り方・コツ – 大切なのは2つの軸の選び方
うまいマトリクスを作るコツはシンプルです。
ズバリ、2つの軸選び、です。
イメージとしては、秋刀魚の三枚下ろしのように、「どの面から切っていけば、うまく切れるか?」という視点で、2つの軸を選ぶことです。
どんな角度でスライスするかで、その結果は大きく変わるからです。
具体的に言えば、外的環境が大きく変化している中で、自社の事業にテコ入れいないといけないという場面では、クロスSWOT分析にあるような「機会・脅威」という外的環境の軸と、「自社の強み・弱み」という 内的環境の軸が適切になります。
一方で、自社のビジネスにリスクや成功確率などが伴う場合は、リスク分析マトリクスが適切です。有効な事例としては、医薬品ビジネスや油田開発、ベンチャー投資などです。
このように、どの事例にあった「軸選び」こそが、もっとも重要であり、それこそが、あなたのオリジナリティーを発揮する場所でもあります。
参考として、使えそうな軸をリストアップしておきます。
- コスト
- 売上規模
- 経済価値 (例:NPV)
- 成功確率/失敗確率
- 効果
- シンプル/複雑
- 重要度
- 緊急度
- 期間 (短期/長期)
- 地域 (ローカル/グローバル)
- スピード
- 正確性
- ポテンシャル
- 実現可能性
- 実績あり/なし
- 成長性
- 会社への貢献度
- 個人の満足度
- 公式/非公式
- 直感重視/論理重視
他にも探せばたくさんありますし、上述したように、実際の事例にあわせて、どんな角度でスライスするかが重要ですので、ぜひ、マトリクスを作るときにご自身で色々と考えてみてください。
他の事例: 2 x 2 マトリクスはこんな場面にも使える
7つの習慣マトリクス
「7つの習慣」という書籍で使われた有名なマトリクス。重要度と緊急度の2軸を使って、「我々は何に時間と工数を咲いていくべきか?」という点を問いかけるマトリクスです。

コミュニケーションスタイル分析
相手のタイプを知って、どんなアプローチをすれば効果的かを知るためのマトリクス。

縦軸に「人間志向 or タスク志向」をとり、横軸に「自己主張の強い or 弱い」をとって、相手がどんなコミュニケーションを好むかを分析するマトリクスです。もちろん、自分のタイプと自分の弱点も客観的に理解できる点も有用です。
色々な部署の方と連携しながら仕事をしていく人は、このマトリクスに、関連メンバーを当てはめていくと、より効果的なコミュニケーションができるはずです。
人材開発のマトリックス
縦軸に実績・パフォーマンス、横軸にポテンシャルをとって、将来の幹部候補人材を可視化するマトリクスです。

実際には、さらに細分化して、ナインボックス(以下の関連記事参照)として使われることが多いかもしれません。
他にも、縦軸に会社への貢献度、横軸に従業員の満足度をとれば、自社のハイパフォーマーや転職可能性のある引き止め人材を可視化できます。

Ippoの情報発信メディアの棲み分け
以下は、以前私が作成したIppoの情報発信メディアの棲み分けマトリックスです。
公式・非公式と論理・感情重視の2軸を使いました。こんな使い方もあります、という参考です。(Ippoの事例: Noteと他メディアとの棲み分け)

まとめ: 日常業務や会議で煮詰まった時に
いかがでしたでしょうか?
2 x 2 マトリクスは、物事をシンプルに可視化する強力なツールです。
そして、どのような軸の組み合わせにするかによって、表現できる世界は無限にあります。
もし、みなさんの日常業務で頭がもやもやした時や、会議で煮詰まった時には、この2 x 2 マトリクスを思い出して使ってみてはいかがでしょうか?
この記事があなたの仕事に役立てば、これ幸いです。