みなさんは、仕事で「ポジションをとる」というフレーズを聞いたことがあるでしょうか?
「ポジションをとる」という言葉はコンサルティング業界や金融業界ではよく使われる用語ですが、私のように事業会社に務める方は、この「ポジションをとる」という用語はあまり聞きなれないかもしれません。
ただ、この「ポジションをとる」ことは、プロジェクトチームや自部門の関係者を巻き込んで成果を出していくために、本当に大事なことだと思いますので、今回記事にしました。
ポジションをとる=自分の意見(結論)を出す
「ポジションをとる」とは、すなわち、「自分の意見(結論)を出す」ことです。
例えば、社内会議で、A案とB案で割れている時に、あなたはどう立ち振る舞いますか?
そういう場面では、しっかりと、「私はA案を使いたいです。なぜなら・・・」というように、自分がAとBのどちら側(どちらのポジション)にいるのかを明確に発信することが非常に重要です。
もちろん、自分がA案のポジションを取ったとしても、他のメンバーが「B案をとるべきだ」と言うかもしれません。
それでも、全く問題ありません。もっとも大事なことは、自分はA案を支持するというポジションを明確にし、その根拠を打ち出し、B案との議論を戦わせることの方がより価値があるからです。
唯一の解があるような数学と違って、ビジネスには正解はありません。B案を選択すれば100%うまくいく、という可能性はないのですから。
ところが、内資系では、空気を読むとか、ミスを恐れるなどの理由で、全員が同じ案に流れやすい場面があります。特に、上長が発言すると、そういう流れができやすい傾向があります。
しかし、それが会社の価値増加に貢献するかは、別問題です。
誰かが言ったからという根拠ではなく、ロジカルな根拠をもって、はっきりと自分のポジションをとることが大事です。それが最終的なベストな判断に貢献するのですから。
そして、1番やってはいけないパターンが、周りに否定されることを恐れるあまり、「A案もいいけど、B案もなかなか捨てがたいですね」というようなどっちつかずの意見を言うことです。これほど生産性のない無駄発言はありません。(So what? それであなたはどうしたいの? と呆れられます)
実際に、ポジションをとれないあまり、周りの部長だけでなく、部下たちからも見放されてしまった私の会社の某部長を紹介します。
ポジションをとれない私の某部長がどうなったか・・
前項で、「ポジションをとる=自分の意見(結論)を出す」という説明をしました。
部長レベルの組織の長になると、部下たちから『AとBどちらがいいでしょうか? 判断をお願いします』というような意思決定の相談が毎日のように舞い込んできます。
つまり、組織のトップになると、「自分がポジションをとる=自分の組織としての意思決定」という責任が生まれてくるのです。
何の権限も持たない部下が「ポジションをとる」だけでは、それは「提案」レベルに留まります。ある意味、責任がないわけです。最後に判断して、何か問題があれば、ケツを拭くのは上司になるわけですから。
ところが、権限を持っている組織のトップになると話が変わり、大勢の人を動かす「意思決定」になり、そこには組織のトップとしての責任も乗っかってきます。むしろ、それこそが組織のトップの役割でもあり、やりがいでもあるのですが。
ところが、その組織のトップとしての役割を理解していない人や、覚悟が足りない人が部長職についている場面に多々遭遇します。
どんな人かというと、「ポジションをとる」ことを恐れている人です。
自分がポジションをとり、それが意思決定として周りに波及していくと、必ず組織のどこからか「反対意見」や「不平・不満」が出てきます。
人間は多種多様な考え・価値観をもっているので、反対意見があることは至極当然のことなのですが、その「反対意見」や「不平・不満」を恐れるトップがいます。私の会社にも。
特に、人間的に優しかったり、相手への配慮を気にしすぎる人ほど、そういった傾向があるように思います。
ところが、組織の長たる人間が、そういう「反対意見」を気にして、ポジションをとらなくなるのは、最も愚策なわけです。これでは組織は崩壊します。
そして残念なことに、私の会社の数十人を率いる某部長は、まさに「ポジションをとれない人」であり、その結果、意思決定ができずに、いろいろな問題が解決されずに積み上がっていき、その問題がまた新たな問題を生み、雪だるま式に問題が広がっていくという状況になりました。
まず最初に、直属の課長たちの信頼を失い、頼られなくなりました。『この部長に何を提案しても、決断から逃げるだけだ』と思われてしまっているんですね。
そうなると、課長たちは問題が起きても部長を頼らずに、自分たちで解決しようとし始めます。そして、次第に、いろいろな問題は部長には報告されないようになります。
こんな状況ですから、他部門の部長陣から、その部長に何か相談があっても、部長は何も状況を掴めておらず、トンチンカンなことを言ってしまうわけです。
そうなると、他の部門から、その課長たちに「おたくの部長、大丈夫?? ぜんぜん話が噛み合わないんだけど?」というような探りが入るようになり、次第に、「部長使えないレッテル」や「早くあの部長を引き摺り下ろせ」話が加速度的に、普及していくわけです。
そんなことが、私の目の前で繰り広げられており(他の部長陣たちが話し合っている姿を目の前で見ており)、その某部長がポジションをとれない話は、日本のみならず、グローバルの組織の方にも伝わってしまいました。
その残念な部長はもうすぐ、お役御免&早期退職の道に追い込まれることはほぼ確実になっています。
組織の長ほど、反対意見を恐れずに、ポジションをとり、意思決定をすることが非常に重要なのです。そうしないと、いつまで立っても、部下たちは前に進むことができません。
たとえ反対意見が出たとしても、何もしないでいるよりは、前に進んだ方がいいのです。
前に進むことでこそ、越えるべきハードルや改善点が見えてくるのですから。
ポジションをとることで、反対意見や越えるべきハードルを吸い上げる
ポジションをとると、必ずどこかで反対意見がでます。 これは何事にもPros/Consがあり、どこかに不利益を受け取る人がいるからです。
でも、ここで疑問が浮かびます。
反対意見が出たり、越えるべきハードルが見つかることは、ネガティブなことなのでしょうか?
私は反対意見が出ることはポジティブなことだと強く思います。だって、何もポジションをとらなかったら、見える化しなかったことなのですから。
むしろ、その反対意見や不満を解決すれば、さらなる価値を生み出すことができますから、その貴重なきっかけをくれたと思うと感謝するべきだと思います。
例えば、紙書類の電子化を会社に導入したとしましょう。
それによって、多くの印刷費用を節約でき、紙書類の回覧の無駄な業務がなくなったとします。
一方で、電子化のためのインフラ作りの工数がかかったり、今まで紙書類の整理や管理をしてきた社員の仕事がなくなることもあるでしょう。そういった人たちからは反対意見が出るのは当然です。
でも、そういう反対意見に対しても、しっかりと受け入れながら、前に進むことで、最終的には、会社としては大幅な経費カットと業務効率化が図れるわけです。
国の公共事業なども同様だと思いませんか?
例えば、新幹線を通そうと思ったら、その間の地域や地主の方の反発は必ず発生します。それでも、そういう反対意見に対して向きあって前に進むことで、最終的に、多くの人から喜ばれる価値を提供できるわけです。
ポジションをとることは、前に進むための第一歩です。それに対する反対意見は当然ありますが、それを恐れずに、自分の意見を言うことこそ、我々ビジネスパーソンにとって、とても大事なことなのです。
まず、Yes/Noを明確にする。その上で、例外や但し書きを付け加える。
ここまでポジションをとり、「反対意見を恐れずに前に進む」ことをお伝えしました。
ただ、何も反対意見を無視して強引に進めることが重要だとは言っていません。
より前に進める推進力を得るためには、反対意見への配慮がキーポイントです。
具体的にどうするかと言うと、まずポジションを取った後に、例外や但し書きを加えてあげればいいのです。
例えば、こんな風に。
「紙書類の電子化を導入します。そのために社内のインフラ整備や書類回覧プロセスの変更を進めていきます。」(←まずはポジションをとる)
「ただし、一度に全てを切り替えると、いろいろな問題が発生したり、業務がかえって非効率になる恐れがあります。」(←ここで、想定される反対意見を先に言ってしまう)
「そこで、業務効率に影響が出ないように、段階的に、電子化を進めて行こうと考えています」(←反対意見への配慮を織り込む)
「こうすることで、現在のオペレーションへの影響を最小限にしつつ、1年後には電子化によるコストと業務効率の最大化を図ることができます」
何を言いたいかと言うと、ポジションは明確にとりますが、それによる不利益は最小限にするように尽力しますよ、というメッセージとして「例外」や「但し書き」を加えてあげると、より価値を生み出しやすくなるということです。
先ほどの例では、段階的に導入するという配慮をしています。
他にも、過去事例がなく成功率の観点で反対意見が出そうであれば、まずは小規模のパイロット導入をして検証する、というアプローチや、
従来のやり方への固執が強い場面などは、1年導入してみて、そこで継続導入するかどうかを再評価する、などの期間の観点でアプローチする方法もあります。
いかがでしょうか?
大事なことは、まずポジションをとることなのです。
そこで但し書や例外を準備できると、なお良しです。
ただ、気をつけておかないといけないのは、相手のことに配慮するあまり、ポジションをとることをためらってはいけない、ということです。(私の会社の某部長のように)