『資料作っておいて』と言われて、いきなりパワーポイントを開き、資料を作りながらメッセージを考える人がいます。
『データ分析しておいて』と言われて、いきなりエクセルでデータをこねくり回しながら、メッセージを考える人がいます。
実は昔の私も、いきなりパワーポイントを開いて作業をしていたので猛省しているのですが、構成と作業はキッチリと切り分けるべきだし、データ分析の際の仮説と検証も区別して取り組むべきです。
この記事では、実際にあった周りの事例をもとに、プレゼン準備やデータ分析の仮説検証の順序を考察していきます。
リンカーンのたとえ名言:6時間のうち4時間を斧を研ぐのに費やす
私の好きなリンカーンの名言の中に、こんな言葉があります。
もし、木を切り倒すのに6時間与えられたら、私は最初の4時間を斧を研ぐのに費やすだろう。
- エイブラハム・リンカーン -(米国の第16代大統領、奴隷解放の父 / 1809~1865)
実際にこんなことをやっていたら、監督者に、『悠長に斧なんか研いでないで、早く木を切り倒す作業を始めなさい』と言われてしまいそうなものです。
しかし、斧の切れ味がとても悪くて、今のまま木を切ろうとしても、何時間かかっても作業が完了しないという状況だったら、どうでしょうか?
もしかしたら、4時間を使って、斧の切れ味を研ぎ澄ます方が、全体から見ると効率的かもしれません。
これと同じことが、ビジネスにも言えます。
ゴールまでの道筋が見えていない時に、とりあえず走り出しても、結果的に時間を無駄にすることがあります。
そういう時ほど、じっくりと、ゴールまでのプロセスを整理することが、結果的に効率的である時もあるのです。
先日、ちょうどそんな場面に出くわしたので、事例紹介したいと思います。
事例1: エクセルのデータ作業からメッセージを見つけようするのは非効率
先日、戦略コンサルが講師を務める社内研修に参加した時のことです。
その研修は「戦略的思考を鍛える」というテーマで、6人グループが7つほどの計40名前後の研修でした。
その中の一つのワークショップとして、「仮説を立てて、実際のExcelのデータを使って検証してみましょう」というものがありました。
10分かそこらの限られた時間内で、Excelデータをいじって、データ分析して、最終的にグラフを使って説明しないといけないという命題だったので、私の周りの参加者は早速、カタカタとパソコンを触り出して、データ加工作業を始めていました。
一方、私は何をやっていたかと言うと、Excelデータには一切触れずに、半分以上の時間を、
- どんなメッセージが言えれば、その仮説を肯定 or 否定できるか?
- そのメッセージを支えるグラフはどんなものか?
- そのグラフを作るために必要なデータは何で、逆にいらないデータは何か?
という点をひたすら紙のノートに書き殴って、考察していました。
周りがどんどん作業をしている雰囲気なので、さすがに焦りも感じつつでしたが、とにかく、ゴールまでの道筋を立てることに集中しました。
それで、結局どうなったかと言うと、私のグループ内で、仮説検証までいけたのが私一人。そのまま、グループ代表としてプレゼンまでやりました。
そのあと、周りのメンバーがどんなことをやっていたかを聞いたところ、
手元にあるデータを色々と加工してグラフを作ってみて、そこから何かメッセージが言えないかを模索していた、ということでした。
実は、このように、いきなり作業開始するやり方は非効率なアプローチです。
この時の研修では与えられたデータが少なかったので、データ加工をしていれば、いつかは欲しいメッセージを見つけることができるかもしれません。
しかし、実際のビジネスシーンでは、大量にデータが転がっており、しかも使えるものか使えないものかも識別不能だったりします。
そんな状況下で、とりあえず、使えそうなデータを引っ張ってきて作業をしても、無駄骨になる可能性が極端に高いのが現実です。いわゆる、データの海に溺れてしまっている状況です。
データを使って仮説検証する時は、作業を始める前の準備こそが最も重要なのです。
同じようなことが、社内の意思決定会議体への提案資料作成時にも見受けられました。
事例2: プレゼン資料を作る前に、メッセージと根拠を練り上げるべき
とあるプロダクトの社内意思決定会議体への提案資料作成をしていた時の話です。
マーケティング事業部の担当者が作ったパワーポイントスライドに、「何を言いたいのか分からない」と言う指摘が各所から入りました(そのうちの一人が私なのですが)
そのスライドがどんなものだったかと言うと、それらしいプロダクトの売上予測のグラフが貼ってあるのですが、それだけなのです。
そこの売上予測から「何を言いたいのか?」というメッセージが見えないのです。スライドタイトル・本文からも読み取れません。(タイトルは、プロダクトの売上予測、ですから)
本来であれば、そのグラフを使って伝えたいメッセージがあるはずです。例えば、
- 前回提出した売上予測と比較して、全体として20%の売上増加が見込める。(その理由は〇〇のため)
- 売上のピークは〇〇年度に、100億円の見込み。会社全体の売上への寄与は先にはなるが、その金額インパクトは大きい。
- 競合他社のプロダクトと比較して、見劣りしない売上規模が見込める。投資価値は高い。
などなどです。
ところが、実際は、とりあえず手元にあるデータやグラフから使えそうなものを転用しているだけ、という状況でした。
データや表・グラフを扱う時に陥りやすい事例は、それらしいものを貼って、そこからものを言おうとすることです。これは、先ほどの事例1と同じアプローチと言えます。
本当はこの逆のアプローチをする必要があります。例えば、先ほどの以下の例であれば、
- 前回提出した売上予測と比較して、全体として20%の売上増加が見込める。(その理由は〇〇のため)
前回提出した売上予測と今回の売上予測の比較表を出すべきですし、その理由を示すエビデンス(根拠)も必要になります。
そして、比較の仕方も、単にグラフを並べたりするのではなく、20%増加という点に着目するようなグラフにするとメッセージがより明確になります。
つまり、「何をメッセージとして強調したいか?」によって、作るべきデータ、表、グラフは変わってきます。だからこそ、まず最初に、「伝えたいメッセージ」から入らないと作業が効率的に進まないのです。
ポイントは3つです。
- 言いたいメッセージが最初
- それを支えるデータやグラフを考える
- 余計なデータは省いて、メッセージに関係あるデータだけ見せる
このあたりの話は、色々な書籍でも解説されていると思いますが、私のオススメは、森 秀明さんの「外資系コンサルの資料作成術 /森秀明」です。とても読みやすく、内容がすんなり入ってきた覚えがあります。
興味がある方は買って損はないと思います。
事例3: アメリカ人エグゼクティブのプレゼンでは、資料の優先順位は一番低い
私の会社のエグゼクティブたち(アメリカ人多め)のプレゼンを見ていて思うのは、プレゼン資料の優先順位が低いことです。
どういうことかと言うと、例えば、彼らはプレゼンスライド1枚で、10分でも20分でも話せるのです。つまり、資料がなくても大丈夫な状態を作っているのです。
以前、グローバルコミュニケーションという社内研修に参加した時のことです。
その講師(アメリカ人)が言っていたのが、『プレゼン資料作成は一番最後』ということでした。
プレゼン準備には順番がある、と彼は言うのです。
- まず、プレゼンの全体ストーリーを考える。
- ストーリーをいくつかのパーツに分解して、それぞれのキーメッセージを考える。
- そのキーメッセージを伝えるためのスピーチと構成を考える。(ボディランゲージなどを含む)
- 最後に、言葉で説明しにくい部分や、可視化すると説得力が増す点のみ資料を作る。
これは言い換えると、スピーチがうまい人であれば、もはやプレゼン資料は不要ということです。
つまり、グローバルで活躍しているエグゼクティブは、まずストーリーやメッセージを考えるのです。そして、最後に時間があれば、ストーリーやメッセージの補足として、資料を作るわけです。
例えるなら、口頭でのスピーチがメインディッシュで、資料は副菜か、料理を引き立てる飾り、というイメージでしょうか。
もちろん、ここで例にあげたエグゼクティブたちのやり方が必ずしも100%正しいかというと、そうではないかもしれません。物事に絶対はありませんし、多くの場合はケースバイケースですから。
ただ、こういうアプローチを考慮せずに、「いきなりパワーポイントを開いて資料作成を始める」やり方は、無駄が多くなりがちで、最終的なアプトプットも低くなりがちだと、思いませんか?
まとめ:資料作成やデータ加工の前に、ストーリーとメッセージを。
ここまでの内容を簡単にまとめたいと思います。
- データ分析をする時も、プレゼン資料を作る時も、いきなり作業に取り掛からずに、まずはストーリーとメッセージを考えることを先にやる。
- データを使って仮説検証する時、「とりあえずデータ加工してみよう」というアプローチは時間を無駄に使ってしまう可能性が高いので注意。
- リアルなビジネスシーンでは、使えるかどうかも分からないデータが転がっているので、そういったデータの海に溺れる人が多いので特に注意。
- アメリカのエグゼクティブたちが、少ないスライド枚数でプレゼンをするのは、資料はスピーチの補足と考えているから。彼らのメインディッシュは、口頭でのスピーチ(つまり、メッセージ)
- 資料を作るのは最後でいい。ストーリーとメッセージが固まり、スピーチ内容が固まってから作るぐらいでもよい。
最後に、もう一度、リンカーンの名言を引用して締めたいと思います。明日からの仕事で、もし資料作成やデータ加工の場面に出くわした時に、ぜひチラッと思い出してみてはいかがでしょうか?
きっと、仕事のアウトプットがより良いものになると思います。
もし、木を切り倒すのに6時間与えられたら、私は最初の4時間を斧を研ぐのに費やすだろう。
- エイブラハム・リンカーン -(米国の第16代大統領、奴隷解放の父 / 1809~1865)