戦略コンサル出身の人やグローバルプロダクトリーダーと会議をした時、いつも感じることがあります。
それは、『彼らの論理力の圧倒的高さ』です。
彼らは常に物事の正確な姿を理解しようとしており、それゆえに、相手の発言に足りない情報があれば即座に以下のような質問を投げかけ、情報を集めます。
- そこから何が言えますか?
- 要するに、こういうことですか?
- なぜ、そう言えるのですか?
- エビデンス(裏付ける根拠)はありますか?
- 例えば、どういうことですか?
- 他に可能性はありますか?
そして、集めた断片的な情報を頭の中で再構築し、物事の全体像を組み上げていきます。それも瞬間的に。(面白いのは、彼らが組み上げた全体像は、情報提供者も気がついていなかった、、というケースがあることです。)
なぜ彼らがこのような論理力を持っているかと言うと、「グローバルに社内外のキーステークホルダー(利害関係者)と調整・交渉していく」必要があるからです。グローバルに社内外と渡り合うためには、ロジック(論理)が何にも増して重要なのです。
ということで、この記事では「論理(ロジック)」について深掘りしていきたいと思います。
まず、論理力と論理的思考力(ロジカルシンキング)の違いを明確にした上で、論理(ロジック)とはどういうものか?という点を確認し、最後に論理(ロジック)を作るための基本モデルを紹介したいと思います。
論理力と論理的思考力(ロジカル・シンキング)の違い
ロジカル・シンキング(論理的思考力)という言葉はおそらく社会人であれば、誰でも聞いたことがある言葉だと思います。
では、「論理力」や「論理学」という言葉はどうでしょうか? 意外と知らなかったり、具体的なイメージが湧かない方が多いかもしれません。
言葉だけを見ると、なんだか似ているように思うのですが、実は「論理力」と「論理的思考力」は全く別のものです。
論理(ロジック)とは何か? 論理力とは何か? を考えるうえで、まずはロジカルシンキングと比較していくと分かりやすいので、以下、説明したいと思います。
論理力とは、考えをきちんと伝える/受け取るチカラ
みなさんは、論理学・哲学の分野で著名な野矢 茂樹氏をご存知でしょうか?
その野矢氏はその著書『新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)』で、以下のように述べています。
「論理的思考力」とか「ロジカル・シンキング」といった言葉がよく聞かれるように、論理とは思考に関わる力だと思われがちである。だが、そこには誤解がある。(中略)
論理力は思考力そのものではない。思考は、けっきょくのところ最後は「閃き」(飛躍)に行き着く。(中略) 思考の本質はむしろ飛躍と自由にあり、そしてそれは論理の役目ではない。(中略)
論理力とは、思考力のような新しいものを生み出す力ではなく、考えをきちんと伝える力であり、伝えられたものをきちんと受け取る力にほかならない。
私はこの説明を読んだ時、やっと自分の中のモヤモヤが晴れたことを覚えています。
いわゆる、会社で使っているロジカル・シンキングという言葉は、人によって思考力のことを言っていたり、論理力のことを言っていたりしていて、話が噛み合わないと感じることが過去にあったからです。
この野矢氏のコメントは、とてもシンプルかつ明瞭です。
- 論理力と思考力は、まったく違うチカラ。
- 論理力は、考えをきちんと伝えたり、受け取ったりする力。
- 思考力は、考えを跳躍させることによって、今までにない新しいものを生み出す力。
(イメージ図解)論理力と思考力のマトリックス
これをざっくりと図解すると、以下のイメージです。(※あくまで私の解釈です)

図のAのエリアをみてください。ここは新しいものを生み出す思考力が特に必要な領域です。
例えば、美術や芸術などのアートが当てはまると思います。
一方、図のBのエリアをみてください。ここは論理力が特に必要な世界です。
例えば、裁判や事実の検証、ディベートなどてす。論理(ロジック)を検証するという点に重きを置いている分野です。
さて、ではエリアCをみてください。ここは事実をきちんと検証できる論理力と、新しいアイデアに跳躍できる思考力の両方が求められる領域です。
例えば、新規事業創出、起業、戦略コンサルの仕事などです。
つまり、ここがロジカルシンキング(論理的思考力)の領域ではないかと思うのです。
そして、このロジカルシンキング(論理的思考力)を高めるためには、ベースとなる論理力アップが何にも増して重要だと思います。
ベースとなる論理力を鍛えれば、コンサルのフレームワークをますます活かせる
日本では2000年以降、コンサル出身者によってロジカル・シンキングやそのフレームワークが周知されました。そして現在、彼らの思考様式やフレームワークは我々の日常会話でも違和感なく使われるくらいまで浸透しています。
一方で、そのフレームワークを知ること・使うことに意識が傾いてしまっている方も多くなったのではないか、という気がします(これは私の体感なので、明確な根拠はないですが)。
例えば、「ロジックツリー(論理を構成する関連図)」や「MECE(モレなくダブリなく)」「SWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析」などのフレームワークを使って考えれば、ロジカルにアウトプットができているはずだ、というように。
ここで気をつけないといけないのは、「フレームワークを使ったアウトプット」と「一つ一つの論理(ロジック)が強固であること」は無関係ということです。
例えば、ロジックツリーとは、それぞれの論理が、So What? / Why So? で繋がってできた関連図ですが、これが有効なのは、一つ一つの論理が単独でも強固であるという前提があった上での話です。
いくら見た目として綺麗なツリーができていても、その中身に肝心のロジックがなければ、ハリボテのロジックツリーになってしまいます。
別の喩えをすれば、サブプライムローンを証券化した金融商品といった所でしょうか(その結果は、みなさん、ご存知の通りです)。
つまり、コンサルのフレームワークを有効に活用するためにも、一つ一つの論理(ロジック)を理解し、しっかりと自己検証できる力が必要ということです。
そもそも、論理 (ロジック) とは何?
それでは、『論理(ロジック)』とは何なのでしょうか?
論理(ロジック)とは、
- 思考の妥当性が保証される法則や形式。
- 事物の間にある法則的な連関。
(引用:デジタル大辞泉)
要するに、”考えを裏付ける法則” のことです。
(例1)丘に逃げなさい。
例えば、『地震が起きた時に、今すぐ丘に逃げてください』というアナウンスがあったとします。
日本人であれば、
- 地震が起きると津波がやってくる。
- 津波が来ると海抜ゼロ付近の集落は飲み込まれてしまう。
という法則を経験的に知っていますので、『地震が起きたので、丘に逃げなさい』という主張に納得して、行動すると思います。
しかし、これが津波のことなど全く知らない外国の村民だったら、どうでしょうか?
もしかしたら、誰も丘に逃げないかもしれません。なぜなら「地震が起きたこと」と「丘に逃げること」の間に関連性を見出せないからです。(すなわち、論理の飛躍という状態)。
このように、我々は自分の考えを述べるとき、その考えを支える法則、すなわち論理(ロジック)に注意を払わないといけない、ということです。
(例2)明日は雨が降ると思う。
もう少しわかりやすい例を出します。
以下の3つのセリフの中で、どれが一番雨が降りそうでしょうか?
『明日は雨が降ると思う。私の直感で』
『明日は雨が降ると思う。私の古傷が痛むので。古傷が痛むと決まって翌日は雨だから。』
『明日は雨が降ると思う。さっきの天気予報では降水確率が90%だったから。』
みなさん、3つ目を選んだのではないでしょうか。
もちろん、2つ目の古傷痛むケースで過去に外れ無しだったという証拠があったり、3つ目の天気予報は外れることが多いという証拠があるなら、順番は入れ替わりますが(そのあたりはディベートの世界に譲ります)、一般的には3つ目でしょう。
なぜなら、これが一番確からしい法則に見えるからです。
このように、何かの主張をしたい時は、その主張を裏付ける法則がとても重要である、ということです。
論理(ロジック)を構築する3つの要素とは?
ビジネスの世界で自分の意見を通したい時、どんな説明をするのが効果的でしょうか?
現代哲学者スティーブン・トゥルーミンは、実社会でのディベート、演説や交渉・説得などの様々な議論について研究した結果、以下のモデルを提唱しました。
ある主張(クレーム)を論証するためには、それを支える客観的事実(データ)と、データが主張につながるためのロジックである論拠(ワラント)が必要である。
つまり、以下のような論理構成です。
- ここに、データ(客観的事実)がある。
- だから、クレーム(主張)が言える。
- なぜなら、ワラント(論拠)があるからだ。
先ほどの(例2)明日は雨が降る(天気予報バージョン)では、以下のようになります。
- 番組Aの天気予報は明日の降水確率が90%だと言った(客観的事実)。
- だから、明日は雨が降ると私は思う(主張)。
- なぜなら、番組Aの天気予報は過去に外したことはないから(論拠)。

もう一つの地震の事例では、以下のようなロジックです。
- 地震が発生した(客観的事実)。
- だから、丘に逃げなさい(主張)。
- なぜなら、地震が起きて数時間後に津波が押し寄せてきたことが過去にあり、今回もそうなる可能性が高いから(論拠)。
いかがでしょうか?
たったの3つの要素というシンプルな論理構成なのに、説得力のある主張になっていると思いませんか?
このモデル(トゥルーミン・モデル)は、現在の競技ディベートや科学的論証の基本になっています。日本ではこの3つの要素を使って、三角ロジックと呼ぶ場合もあります。

実際のビジネスシーンにおいては、この3つの要素がきちんと繋がっているかどうかを常に確認しながら進めていくことが重要です。
具体的には、以下のような問いかけをしながら、自己検証を行うのが良いと思います。
- 伝えたい結論は何か?(クレーム:主張)
- その結論を支える根拠は何か?(データ:客観的事実)
- その結論は根拠から論理的に導き出せるものか?(ワラント:論拠)
特に、3のワラント(論拠)を入念に確認することが大事です。
ロジックが破綻する時というのは、往々にして、このワラント(論拠)の設定を間違えている場合が多いためです。
まとめ:ロジックの3要素を意識して、提案力・交渉力をアップさせる
ここまでの内容を簡単にまとめます。
- 論理力は、論理的思考力(ロジカル・シンキング)とは違う。
- 論理力は、きちんと考えを伝える、受け取るチカラ。
- 論理を押さえてこそ、コンサルのフレームワークが活きる。
- 論理を構築する要素は3つ。クレーム(主張)、データ(客観的事実)、ワラント(論拠)。
- ビジネスで議論をする時は、特にワラント(論拠)の設定に気をつける。
いかがでしょうか。
何を隠そう、私自身、コンサルのフレームワークは美しくて好きですし、何よりも素早くアウトプットを出すうえで重宝しています。
そのフレームワークを使っていてよく思うのは、その根本にある一つ一つの論理 (ロジック)の重要性です。
その一つ一つの論理をつくっていくためにも、3つの要素(データ、クレーム、ワラント)を丁寧にみていくことはとても大事なのではないでしょうか。
そうすれば、あなたの提案・交渉のロジックをより強固なものにできると思います。
(参考書籍)論理力を鍛えるのであれば、特に、矢野氏の書籍がオススメです。