これからのビジネスパーソンが目指すべきは、T型・Π型人材だ、という話は色々なところで言われています。(T型人材、Π型人材とはなんぞや? という方は、まずは以下の記事を読まれると良いです)
では、このT型・Π型人材をRPG(ロール・プレイング・ゲーム)で例えてみると、どんなものでしょうか?
と、いきなり変な質問から始めてしまいましたが、実は、仕事や人生はRPGに例えると意外に腹落ちするものなのです。
ということで、少々強引ではありますが、この記事では、RPGが好きでたまらないという少しニッチなビジネスパーソンを対象に、RPGの世界感で喩えながら、我々のキャリアパスを考察していきたいと思います。
なお、これからのストーリーの7割ほどは、一見ビジネスと関係しなそうな話に見える点、ご留意ください。
もちろん、最後の方で、ちゃんとビジネスにリンクするようになっていますので、辛抱強く読んでいただけると嬉しいです。
では、行きます。
キャリア のベース:スペシャリスト(戦士、魔法使い、僧侶)
RPGの定番といえば、まずは、主人公と仲間たちの役割・職業でしょう。
様々な困難に遭遇する冒険の中では、パーティーの多様性がとても大事です。
その多様性のベースになっているのが、キャラクターそれぞれの専門性です。
一番オーソドックスなのは、物理アタッカーの戦士、魔法アタッカーの魔法使い、回復役の僧侶というパーティー構成です。
戦士はパーティーの壁役を担いつつ、前線で敵と戦い、魔法使いはその広範囲の殲滅力で効率的に敵を倒します。僧侶は傷ついた仲間を回復させ、パーティーを維持します。
これらの3人がバランスよく集まると、1人1人で戦う時と比べて、圧倒的なハイパフォーマンスを出せるようになります。
これは仕事においても同じです。
1つのプロダクトを世の中に出すという冒険をやろうとすると、とても1人では太刀打ちできない問題や壁が出てくることになります。
そこで、プロダクトチームを結成し、様々な専門性を持つメンバーでこれらの壁を乗り越えていくのです。
まさに、RPGのパーティーさながらの構図と言えます。
キャリアパス の一歩:王国軍(戦士団、魔法使い団、僧侶団の軍団)
さて、もし、あなたがRPGの世界にいたとしたら、王国軍に仕官して採用してもらいたいと思うかもしれません。
なぜなら、RPGの世界とはいえども、行きていくのはとても大変だからです。どこの世界でも、一定の給料をもらえて、しかも比較的安全に生きていける仕事は、人気が高いものです。
さて、ここにも、王国軍に士官したいと考えている一人の男がいます。彼は田舎の村出身ですが、そこそこ剣の腕が立ち、村の中ではそれなりに有名な剣士でした。
そんな男は、自分の王国に貢献したいという思いと、自分の剣の腕がどこまで通用するのか?という好奇心で、王国軍に士官することになります。
早速、王国軍の採用試験を合格したその男は、戦士枠として採用され、戦士団に配属されます。後から分かったことですが、王国軍は戦士団、魔法使い団、僧侶団の3つの軍団から構成されているとのことでした。
さて、いざ戦士団に入ってみると、、、戦士団には歴戦の猛者たちが沢山いることに気がつきます。例えば、幼い頃から剣術を徹底的に鍛えられた達人や、生まれ持った巨躯を活かした壁役の戦士などなどです。
同じ戦士という職種ながら、実はその立ち振る舞いや特徴によって様々なタイプがいることを知り、また彼らにはとても力が及ばないことを悟った男は、自分のチカラの無さを痛感するのでした。
『おれって、中肉中背だし、剣も達人級じゃないし、他の人よりも秀でた部分がないよなあ』というように。
実際に戦争に駆り出された時も、達人や巨躯の壁役の華々しい活躍の陰で、その男は粛々と雑魚敵を倒すことしかできませんでした。
そんな現実を目の当たりにすると、嫌が応にも、こんなことを思ってしまうわけです。
『おれって、存在価値あるのかなあ? いなくなっても、代わりは沢山いるんだろうなあ』と。
キャリアパス を発展させる:T型人材(他のこともできる器用な戦士)
そんな先行き不透明な将来に危機感を持った男は、剣術や体力以外で何か特徴を作れないか、と考えます。
そして、初心者クラスの攻撃魔法と回復魔法を学んでみることにしました。
普段の戦士としての仕事が終わった後、休む時間や同僚と飲みにいく時間を削ってでも、練習をします。
そして、なんとか簡単な攻撃魔法を習得できたのでした。とても喜んだ男は、早速、実戦に出た際に、攻撃魔法を使ってみるのですが、結局は、敵を倒せるほどの威力はなく、世の中は甘くないなあ、と感じてしまいます。
一方、回復魔法の方は相性は悪くないことが分かりました。攻撃魔法よりも早く習得でき、効果もまずますといったところです。
とは言え、本職の僧侶と比べるとお粗末なレベルなので、結局のところ、『あいつはちょっと器用な戦士』ぐらいの評価に落ち着くことになります。
そんなこんなで、忙しく日々が過ぎていきます。
キャリアパス はどうなる? -畑違いの職種に異動-
戦線の拡大に伴い、僧侶団の方に人材不足が目立つようになりました。
戦士たちは、力自慢を寄せ集めればなんとかなるものの、僧侶たちは母数が限られており、人が足りないということが分かったからです。
また、一般の僧侶たちの中で、王国軍に入ろうという人は多くなく、ほとんどは教会で働いているからです。
そんな人材不足を背景に、猫の手も借りたいという王国軍の上の方の思惑が相まって、その男に僧侶団への異動命令が下ります。
男にとっては、まさに寝耳に水の話でした。自分の異動命令に納得できない男は、以下のように、上司に直談判しました。
『今まで前線で戦ってきた自分が、なんで後方支援の僧侶をやらないといけないんですか? 僧侶団なら、戦闘経験もいらないし、他にも適任がいるのではないですか? 自分である必要はどこにあるんですか?』
戦士団の上司はこう言います。
『実は、おれの上の方で決まったことで、おれも詳しい理由は分からないんだ。どうやら、お前が回復魔法を多少使える器用なやつだということもあって、人手不足の僧侶団からオファーがあったようなんだ。お前も戦士団の中で中堅になってきて、これからだ、というタイミングだったこともよく理解できる。でも、王国軍の全体を考えた上で、この異動を納得してくれないか?』
男は上司の気持ちもよく理解できました。また、王国軍の組織的な事情も理解しているので、理性的には納得しました。(感情としては、まったく腹落ちしていなかったようですが)。
とはいえ、王国軍に忠誠を誓った身としては、どんな命令だろうと、やるのであれば完璧に遂行するべきです。
男は、僧侶団という慣れない職場の中で、なんとか食べていけるように、必死で回復魔法というスキルや僧侶としての立ち振る舞いを覚えていくのでした。
キャリアパス の進化:Π型人材(前線でも戦える僧侶)
僧侶団に異動してから1年が立ち、僧侶としてのある程度の回復魔法と立ち振る舞いを覚えた頃、大規模な戦争が起きました。
前線の戦士たちは傷つき、ひっきりなしに後方支援の場所に怪我人が運びこまれます。そして、僧侶たちは戦士の傷を癒しては戦場に送り返すという、という激しい消耗戦でした。
でも、帰ってこれる戦士たちは、まだラッキーな方です。実は、戦場で深く傷ついた戦士たちは後方に戻ることすらできずに、前線で一人また一人と倒れていたのです。
そんな元同僚たちの姿を目の当たりにした男は、いてもたってもいられず、前線に飛び出していました。
ただ、仲間を助けたいという一心で、僧侶という身にも関わらず、近くにあった切れ味の悪そうなボロボロの剣と盾を持って、前線に向かいます。
前線は相変わらず、悲惨な状況でした。戦士団時代に同僚だった剣術の達人や巨躯の壁役たちもかなりの傷を負いながら戦っています。
男は、戦士団時代に培った現場感覚から、この戦争を優位に立たせるためのキーパーソンは、その達人と壁役といったエース級だと判断し、彼らのサポートに回ることにします。
時には、体に染み付いた剣術を使いながら雑魚敵を切りつつ(切れ味が悪いので殴ると言った方が近い)、強敵が来たら、達人と巨躯の壁役の回復に専念し、余裕が出来てきたら、趣味程度にやっていた初級の攻撃魔法を繰り出します。
長く戦士団にいたことで、現場感覚は体に染み付いており、その場の戦況に応じて、殴打、回復、攻撃魔法で牽制、を使い分けてサポートに回ります。
そんな男のサポートで、剣の達人と壁役は息を吹き返すどころか、今までにないような活躍を見せ始めるようになります。
そして、キーパーソンたちの勢いに感化されたのか、周りの戦士たちの勢いも増しているようです。
そんなこんなで、序盤は劣勢だった戦争ですが、蓋を開けてみると、圧倒的な勝利で幕を閉めることになりました。
キャリアパス を諦めるな:Π型人材は後になってから評価される
その戦争が終わった後、前線の戦士団の中で奇妙な噂が立ちました。
『今回の戦争では、剣で敵を殴りつつ、周りを回復しながら、時には魔法で牽制している変なヤツがいた』とか、
『今回もやっぱり剣術の達人と巨躯の壁役のおかげで勝てた。そういえば、今回はあの二人の周りに普段は見ない僧侶を見かけた気がする。』とかなんとか。
そんな中、明らかに違う評価をしている二人がいました。
それは、剣の達人と巨躯の壁役の二人です。二人は上司に揃ってこう言いました。
『今回の戦争の功労者は、あいつです。我々だけの力押しでは苦戦している中、前線で回復サポートをしながら、戦線を維持してくれたのは紛れもなく彼です。
しかも、雑魚敵を排除したり、攻撃魔法で牽制をしてくれたおかげで、我々は本来の役割に100%力を発揮することができたからです』と。
『彼は見た目的にはあんまり目立ちませんが、戦争を前に進めるための勘所を押さえたサポートをしていました。』と。
そして、戦士団の時は大して目立つこともなく、評価も普通だった男は、いつの間にか、こう呼ばれるようになりました。
『現場で殴って踊れる僧侶』と。
Π型人材(殴って踊れる僧侶)のその後の話
その後、王国軍では、とある流行が広まります。
なぜか、僧侶達がこぞって、剣術や殴打術を習い始めたのです。中には、棒術や槍術を学ぶものも出始めました。また、反対に、戦士団も簡単な回復魔法や攻撃魔法を学ぶようになりました。
それぞれの専門性を活かしながらも、浅く広い知識と経験もつける訓練が流行し出したのです。一体、誰がそんな流行に火をつけたのか? というように、周りの諸国は不思議そうにみていました。
ところが、実際に戦争になると、その王国軍は柔軟な戦略とチームワークで、周りの諸国を圧倒していきます。一人一人の専門職の力に差はないのにも関わらず、なぜか総合力で圧倒的な差が生まれてしまうのです。
そんな実力を目の当たりにした諸国の重鎮は、王国軍の研究を始めます。すると、その革新的な軍団訓練を始めたらしい無名の軍団長に辿り着くことになります。
その軍団長は、のちに名前を轟かせることになるのですが、それはまた先の話。
えっ、それは誰だって?
それは、すでにあなたも想像がついている『その男』だったのです。
彼はいつの間にか、王国軍の軍団長にまでなっており、その後の王国軍の発展に大きく貢献したのだそうです。
あとがき: RPGストーリーの種明かし(筆者の経歴との繋がり)
いかがでしたでしょうか?
RPGストーリー仕立てにして、戦士(スペシャリスト)が器用な戦士(T型人材)を経て、現場で殴れる僧侶(Π型人材)になっていく過程を、リアルな苦悩も交えて書いてみました。
と言うよりも、何を隠そう、半分くらいは私の実話も混じった体験談だったりします(笑)。
私は入社1年目で開発部隊に配属され、3年ほど一兵士をやっていました。その後、全体を見れるプロジェクトマネジメントオフィスに移り、その後はプロダクトマネジャー(器用な兵士)を経て、現在は後方支援のファイナンスです。
そして、後方支援のファイナンスの立場であるものの、プロダクトチームの中で現場のディスカッションにガンガン食い込んでいく、というような
『殴って踊れるファイナンス』をやっております(なんの職種やねん、という感じなのですが)
ここで面白いのは、ファイナンスという職種は、周りを見渡すと『その道一筋経理でした』という人が多く、私のように現場の開発をやってプロダクトマネジャーをやってきた経歴の人間は皆無です。
もちろん、現場の経験がある人は多少いますが、プロダクトマネジャーとして製品全体を見てきた人は私以外にいません。
それもあり、ファイナンス(僧侶)という職種の中で、プロダクトマネジャー(万能戦士)の力を発揮すると、周りとかなりの差別化を図れることに気づきました。
そして、よくよく調べてみると、これは「Π型人材」というものらしい、ということで、今回RPG仕立てで記事にしてみた次第です。
みなさんは、今、どんな人材タイプでしょうか?
もし、異動が多くて専門性を身につけられていないと嘆いているのだとしたら、安心してください。
それは、Π型人材になるチャンスかもしれません。