スポーツ・仕事・学問のどの分野でも、同じ学習時間なのに、やたらと成長率が高い人がいます。
いったい、なぜ、人によって成長速度が違ってくるのでしょうか?
それをある人は、『才能』と呼びます。
しかし、私はそのことに昔から違和感を持っていました。
実はそれは『才能』ではなくて、学習や練習に対する意識の違いだったのです。
サッカー元日本代表 中田英寿の常に目的・意図を持った練習とは?
皆さんは、サッカー元日本代表の中田英寿をご存知でしょうか?
日本で初めてのワールドカップ出場の立役者となったサッカープレイヤーであり、その後は海外のサッカーリーグで活躍して、現在の日本人サッカー選手の海外展開というキャリアパスを作った人でもあります。(あまり知らないという方は、右のリンクをご覧ください。中田英寿 29年のあゆみ)
中田英寿の華々しい活躍を支えたのは、『才能』などではなく、彼の日々のサッカー練習に向き合う意識だったのです。
そんなエピソードがあるので、まずは紹介させてください。
高卒ルーキーの中田が、J1ベルマーレ平塚でやっていた意図を持ったPK練習とは?
高校卒業後、J1クラブチームのベルマーレ平塚に加入した中田英寿のPK練習のエピソードです。
相手は当時の日本代表GK小島。
練習を見にきていたギャラリーも当然、高卒ルーキーと日本代表GK小島とのマッチアップに期待が高まります。
ところが、結果は、中田が蹴ったシュートはすべてゴールの枠外に飛んでしまい、PK失敗。
ギャリーからもため息が出たそうです。
ところがその数ヶ月後、同じPK練習で中田はすべてのPKを成功させます。
加えて、そのどれもがゴールキーパーがどうやっても取れないギリギリのコー
実は最初のPK練習で中田が意識していたのは、日本代表GK小島からゴールを決めることではなかったのです。
中田の意図した練習は、ギリギリのコースを狙ったシュートを打つこと。
だから、ほとんどのシュートがゴールの枠外に飛んでしまい、PKが下手な高卒ルーキーに見えたのでした。
当時のGK小島は、なぜこんなにPKを外すのかと中田に尋ねたそうです。その返答は、
だってPKを普通に蹴っても練習にならないでしょ、キーパーが
取れないコースに蹴れなきゃ意味ないよ
中田は高卒ルーキーの時点で、すでに他のプロサッカー選手を越える並外れた目的意識を持ってサッカーに取り組んでいたのです。
さて、中田英寿は、いつから意図的な練習をしていたのでしょうか?
実は、遡ると中学校でも似たようなエピソードがありました。
中学生の時から、中田は意図を持ってサッカー練習をしていた
中学校時代、学校のグラウンドで中田がひとりで何回も同じような強さでボールを蹴っているのを見た彼の友人が『何の練習をしてるんだ』と中田に聞いた時の返答です。
サッカーのボールって、足の5本の指で同時に蹴るように思うけど、絶対に違うんだよな。蹴る指によってボールの速さや回転の方向が違うんだ。
だから、足の親指から、人差し指、中指、薬指、小指まで、5本の指で、それぞれ蹴ってみようと思ってるんだよ。
不思議なもんで、5本の指のそれぞれで蹴ると速さや角度が変わるから、そういうのを覚えておかないと、これからサッカーをやっていくのに、正確なパスが思ったところに蹴れないからって。
実は、私もサッカーを幼稚園の頃から始めて20年やっていました。がしかし、こんなことは考えたこともありませんでした。
もちろん、正確なパスを蹴ろうと試行錯誤はしていましたが、足の指1つ1つまで意識して、パスの蹴り方を考えるなんて発想は微塵もありませんでした。
私の周りのサッカー経験者にも、こんなことを意識している人はいなかったように思います。(クラブユースレベルならいたのかもしれませんけど)
私の事例: 高校3年生夏までサッカー部で、そこから現役国立大合格
中田英寿と比べると、見劣りするかもしれませんが、より身近な事例ということで、ここで私の事例を紹介させてください。
私は定期的にノーベル賞を輩出している国立大学卒でして、東大と比べると知名度は低いですが、理系大学の中ではトップクラスの大学に現役合格しています。
これだけなら大したことないと思うかもしれませんが、実は高校3年生の夏まで部活中心の生活をしてきました。
学校の授業が終わったら、すぐにサッカーグラウンドに行き、暗くなるまで練習をしたり、雨の日は階段飛びやダンベルを使った筋肉トレーニングやサーキットトレーニングをするなどで、だいたい夜8時か9時に高校を出るという生活です。
当然、家に帰ってからも疲労で勉強どころではなく、すぐに寝てしまう生活でした。
加えて、私は地元の進学校には通っていたものの、日本で有名な高校でもなく、中堅どころでしたし、私の学年順位も中の上ぐらい、というレベルでした。(もちろん、受験直前の東大模試の判定はE判定です。)
そんな人間がなぜ、理系大学トップクラスの国立大学に合格したのかというと、それは、学習の意識の違いだったと思います。
私は放課後は部活があったので、基本的に勉強時間がありません。また、朝も弱いタイプなので、朝学習もできませんでした。
そのため、授業中に分からないことがあったら、それを家に帰ってから復習することもできませんし、当然ながら宿題も予習もできません。
つまり、時間がなかったんです。
そこでどうやったかと言うと、授業中に、分からない点を全て解決させ、宿題も終わらせ、なおかつ、次の授業の予習もやるようにしました。
どういうことかと言うと、教師の説明は聞かずに、どんどん自分で教科書を進めていくのです、授業中に。
だから、基本的には、自力です。そして、自分では理解できなかった点や教科書に載ってないことを教えてくれた時だけ、教師の話を聞くという学習のやり方をやっていました。
教師が書いた板書など、とっている暇なんてないので、ノートは持ってませんでした。基本的に、記憶するか、教科書にメモするだけです。
数学や物理などの理系科目は、暗記ではなく、理解の深さが結果につながるので、勉強時間が少な目になる点も幸いでした。
こんな感じで進めていたので、おそらく、時間当たりの学習効率は、学内でもトップクラスだったと思います。
そんな最小限の学習時間で、高校3年生の夏まで中の上あたりの順位をキープして、部活引退後に、全てを勉強時間に投入して、スピードを爆発させた、という話です。
ここで伝えたいのは、勉強に関して言うと、おそらく高校時代の私の学習方法に関する目的意識は相当高かったということです。
これは、ほかの人よりも圧倒的に勉強時間が足りないという ”制約条件” があったからだと思います。
いま思えば、なぜ同じことをサッカーに適用しなかったのか? という点が悔やまれますが、当時はサッカーの時間は周りと平等にあったので、成長率にあまり意識が行かなくて、私はレギュラーをとれたものの、サッカーに関しては、普通のレベルでした。
「才能と成功は関係あるのか?」という疑問に対する研究結果
さて、ここで、話を少し一般化していきたいと思います。
スポーツや仕事、学問などのあらゆる分野において、才能と成功の関係というものは、多くの人が興味・関心を持っているトピックであり、昔から心理学の分野で研究されてきました。
フロリダ州立大学心理学部教授 Anders Ericsson 氏とその研究チームは、1993年にとある研究結果を報告しています。
Ericsson教授らは、ベルリンのある名門音楽院からバイオリニストたちを集めて、彼らがキャリアを通して「意識的な練習」に費やしてきた推定時間をヒアリングしました。
ここでいう「意識的な練習」の定義とは、たとえば楽器演奏といった活動のパフォーマンスを向上させるために特別に行う高度な集中力を必要とする訓練活動のことです。
当然、肉体・精神の両面で相当の疲労を伴うので、たとえ熟達者でも、意図的な練習ができる量は1日数時間が限界です。
そして、Ericsson教授らは、バイオリニストたちの技術レベルと「意識的な練習」の量が正比例することを発見しました。
つまり、意識的な練習を多く積み重ねる人ほど、技術レベルが高かったのです。
この研究結果を受け、教授らはこのように報告しています。
先天的能力が重要な役割を果たしていることは否定する
教授らは、「優れたパフォーマンスの要因は、意識的な練習の量であり、才能ではない」と結論づけたのです。
もし、あなたの周りに特定の分野に特に秀でた才能があると思う人がいたら、ぜひ聞いてみるとよいと思います。
「どんな意識を持って練習・学習していますか?」と。
きっと、そこには、その分野でパフォーマンスを高めていく濃密なエッセンスがあるはずです。
ちょっと余談になりますが、私のビジネス英語力の話です。
私のビジネス英語力は、最初の頃、誰が見ても全く使い物にならない相当ヒドイものだったのですが、当時のヒドイ状況をよく知る同僚が、1-2年の産休明けに復帰したときにこんな驚きの言葉かけてきたことがあります。
『Ippoさん、一体何があったの? どうやって英語を勉強したの?』と。
私からしたらちょっと失礼な話なのですが、その同僚からすれば、私の英語力は1-2年程度ではどうにもできないレベルだったのでしょう。
これも、「意識を持った学習」の身近な事例かもしれません。この話は以下の記事に簡単にまとめているので、ビジネス英語で伸び悩んでいる方はぜひ読んでみてください。
まとめ:ビジネスパーソンが明日からの仕事で意識すべきこと
われわれのビジネスの世界での、意図的な練習とは、一体どのようなものでしょうか?
その意図的な練習を考える前に、まずやることがあります。
それは、単調な繰り返し作業の仕事でも、ゼロベースでコンセプトから考えないといけない仕事でも、すべての仕事において、最終成果物(仕事の最終ゴール)を明確に意識することです。
元サッカー日本代表の中田英寿は、どんな練習でも、常に実際の試合のシーンでどう使えるかを強烈にイメージしていました。これと同じです。
最終成果物(ゴール)のイメージなくして、意図的な練習はできないのです。
最終成果物(ゴール)がイメージできたら、今よりもプラスアルファの価値を出せないか考えます。例えば、
- 最終成果物に辿り着く時間を短縮できないか?
- 最終成果物までの作業を減らして楽にできないか?
- 最終成果物を受け取る人がもっと喜ぶにはどうしたらいいか?
- 誰かを巻き込むことで、最終成果物の効果を最大化できないか?
- 誰かに仕事を任せることで、他のメンバーの成長という果実も一緒に得られないか?
- 最終成果物の、さらに一歩先にある成果物はどんなものか?
というようにです。
同じ仕事をしていても、得られる成長が違うのは、最終成果物(ゴール)を自分の目からそらさずに、その一点を見つめながら、さらにプラスアルファの価値を追い求めようとするかどうかの意識の違いなのです。
そして、このプラスアルファの意識を持った人は、より深く、過去、現在、未来の状況を理解することができ、それらを自分の血肉として吸収することができます。
私がこのウェブサイトで一貫して伝えようとしているのは、この意図・意識です。
我々ビジネスパーソンが日々の仕事を通じて、成長を重ねて、自分の今の壁をぶち破っていくには、才能などではなく、この意図を持った意識と訓練なのだと思いませんか?
以上です。
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