この記事を書いている筆者は、日本で数十人チームのプロダクトマネジャーなど経験し、今はアメリカでグローバルリーダー/マネジャーの近くでファイナンスをしています。
今回は、これまでの経験から、私自身ずっと試行錯誤してきた仕事における「スピード」と「質」の話について、考察したいと思います。
この記事が、スピードと質のバランスに悩むビジネスパーソンの一助になれば幸いです。
『スピード』と『質』のどちらを取るべきか? という問い
「スピード」と「質」のどちらを重要視するべきか? という問いは、もはや定番化した感がありますが、一応、最初に触れておきます。
ビジネスにおいては、基本的に「スピード優先」です。
時間が問題にならない状況であれば、人は「質が高い」方を当然選びます。例えば、カップラーメンよりも、有名ラーメン店に1時間以上も並ぶように。
ただし、空腹すぎて倒れそうだった場合に、1時間も並んでいられるでしょうか?
ビジネスにおいては、相手は「空腹」状態になっている場合が大半なので、「スピード」が優先されます。
もちろん、場合によっては、質が求められる場合もあります。
例えば、私はファイナンスという職種で、私の計算した数字が決算資料に反映されるので、数字に関しては100%レベルのクオリティが求められます。
ただ、これも最終的に100%のクオリティが求められるという意味で、そこに至るプロセスでは、やはり「スピード」が優先されます。ここまでの記載ではちょっとわかりにくいと思うので、この後に詳しく述べていきます。
アメリカでは、より『スピード』を求められるようになった
私は2019年6月からアメリカに赴任して来たのですが、日本の時よりもスピードが求められるようになりました。
その理由として、事業本部に来たことで、意思決定の現場に近くなったという点もあります(例えば、4時間後に社長向けプレゼン資料のレビューするから、ASAPでドラフト出してと言われたり)。
ただ、それを差し引いても、基本的に、各マネジャーの意思決定が早いのです。
意思決定が早いということはすなわち、それに必要な情報収集も早いということです。
それもあり、上司やシニアマネジャー層は、「スピード」に飢えています。
つまり、情報に対して、常に「空腹」状態なのです。
だからこそ、自分なりの最高のものを上司に届けよう! というマインドセットは通用せず、「そこそこのものでいいから、最速で届けよう!」というマインドセットが求められます。
最初から100点のクオリティを目指してはいけない理由とは?
スピードを考える上で、注意すべき点があります。
それは、最初から100点を目指してはいけないということです。
高学歴の新入社員やプライドが高い社員に比較的見られる傾向なので、そういう方は無意識にやっていないか注意が必要です(何を隠そう、私も昔はこの状態で失敗し続けました)
自分なりの100点というは、単なる自己満足にすぎません。
なぜなら、それは上司やクライアントの考える100点ではないからです。
そもそも、だいたいの場合、上司やクライアントは一発で成果物が仕上がるなんて思っていません。
もっと言えば、上司やクライアント自身も、どんなものが100点なのかのイメージがないまま指示を出していることがあります。とりあえず、「こんな感じで」というように。
私の上司の場合、指示は曖昧な上に、成果物に関しては細かくチェックするタイプなので、毎回何かしらの修正は入りますし、取締役からのフィードバックなども随時飛んでくるので、それこそ一人で100点を狙いに行くことがリスクなわけです。
だからこそ、まず狙いにいくのは、60%のクオリティだと私は考えます。
それも、できる限り、最速で。
では、そもそも、クオリティとは何なのでしょうか?
60%のクオリティを話す前に、クオリティを定義しておく必要があります。
クオリティの定義とは何か?
品質の定義は、人によって違うと思いますが、プロジェクトマネジメント協会発行のPMBOK(ピンボック)では以下のように定義されています。
品質とは、『本来備わっている特性がまとまって、要求事項を満たす度合い』である。
PMBOK (Project Management Body of Knowledge)
この表現だけではわかりにくいので、とてもシンプルに噛み砕くと、「クライアントと合意した基準を満たしたもの」です。
つまり、上司から指示された仕事であれば、その成果物の100%とは、上司が思い描く100%のことです。
逆にいえば、相手と合意した要求以上の追加分は無駄クオリティとなるのです。

例えば、アプリ開発で、クライアントからの要求にない追加機能をつけたとしましょう。
そして、納期も守った上で請求金額も同じだったのでクライアント側からも喜ばれたとします。
一見何の問題もないように思えます。相手方も喜んでくれていますから。しかし実際には、プロジェクトマネジメントの観点からは、あまり良いとは言えません。
なぜなら、追加機能分を自社リソースを使って実装したわけなので、リソース最適配分の観点から自社側のデメリットになるからです。
もし、追加機能を実装していなければ、その分の人件費を他のプロジェクトに回せたわけです。
同じことが上司や同僚からの依頼にも当てはまります。
求められていない綺麗なパワーポイントを作ることや、求められていない添付資料を作成することは、会社の人件費の無駄になるのです。
よくある例として、上司への報告の際に、求められていない重厚な資料を作ることも、クオリティを捉えきれていない事例です。

厳しい話になりますが、それらは会社の人件費を使った自分の自己満足、になります。
つまり、クオリティとは、仕事の依頼主の要求にピタリとフィットして、”無駄なものがない” 状態をいうのです。
【筆者の持論】60%のクオリティを最速で打ち出せ!
以上を踏まえての私の持論としては、
とにかく、最短で、60%のクオリティを依頼主(上司やクライアント)に打ち出す! ということです。
なぜか?
それは、目の前の成果物の立ち位置を確認できるからです。
具体的には、自分なりの60%の成果物が、上司やクライアントの視点からも60%なのか、それとも30%なのか、またはスタートラインにも立っていないのか、を確認することができるからです。

この現在の立ち位置の確認が非常に大事です。
いうなれば、グーグルマップで到着場所と現在地を確かめるような作業です。
序盤で相手の60%クオリティにミートできたら
もし、成果物が相手の60%にジャストミートできていれば、ほぼ成功したも同然です。私の場合は、60%を達成後は、ある程度かける工数を緩めるようにしています。

だからこそ、60%を作るまでは、他の仕事の優先度を下げてまで、そこにリソースを集中投下して、最速を目指すのです。
仮に、序盤で相手の30%クオリティにしかミートできなくても
仮に、上司やクライアントの要求の半分、30%しかミートできなかった場合は、これはこれで有意義なフィードバックになります。すぐに軌道修正しつつ、その後も工数を集中投下して、すぐに60%に持っていくように再チャレンジできるからです。

終盤で相手の30%クオリティにしかミートできなかったら、、
ところが、もし時間を使って80%までできたと思ってからクライアントに持って行ったとして、そこで、「求めるものはこれじゃない」となったとしたら、もはやリカバリーは難しくなります。
プロジェクトの失敗要因は色々ありますが、大きな枠組みでいえば、相手との成果物のすり合わせ不足のまま、リカバリーができない終盤までもつれ込んでしまうことにあります。

脱線しますが、そうならないために、プロジェクトマネジャーの仕事は、社内外とのコミュニケーションが9割の仕事とも言われているわけです。
これは何もプロジェクトマネジャーの話だけでなく、日々の自分と上司や同僚の仕事の受注・発注でも全く同じ話です。
じゃあ、そもそも論で、60%じゃなくて、30%ができたタイミングで、上司やクライアントに持っていけばいいんじゃないの? という話もあるのですが、
これはケースバイケースになります。
30%のものだと、まだ全体像が見えなさすぎる場合もあるので、「ちゃんと作ってから持ってこい」と言われる可能性があるからです。
私の上司の場合、かなり忙しいので、時間をとってもらって見せるという機会としては、60%が適切だなと思っています。
エレベーターピッチで事前にストーリーと大枠を合意しておく
いきなり60%を持っていくのもリスクがあるなと感じた場合は、「エレベーターピッチ」を使うのも効果的です。
エレベーターピッチとは、アメリカのシリコンバレーが発祥と言われる「ビジネスプランを30秒ほどで説明する手法」のことです。
投資家とばったりエレベーターで出会ったら、その中でピッチ(説明)して資金を引き出せるようにならないといけない、ということが言葉の由来です。
例えば、つい先週、大人数のプレゼンの機会があったのですが、上司との隙間時間の1分とかの雑談の中で、「そういえば、あの件のプレゼンですが、こういうメッセージを伝えたいので、こういうストーリー構成とデータでプレゼン作ろうと思っています」みたいな感じでディスカッションしました。
忙しい上司との隙間時間を見つけたら、エレベーターピッチで、大枠のストーリーやメッセージをすり合わせをしておくと、あとで手戻りが少ないですし、上司も「どんなものが出てくるのか」想像がついて安心するので効果的です。
まとめ:最速 & 60%クオリティ を目指す
長くなったので、最後にまとめます。
- ビジネスでは、基本的に「スピード」を優先する
- 最初から100点のクオリティを目指さない
- 自分なりの100点は、依頼主の100点ではない
- クオリティとは、「相手と合意した基準」をいう
- クオリティとは、相手の要求にフィットして、無駄がない状態
- まず、最速で、自分なりの60点クオリティを打ち出すべし
- そうすれば、もし相手のクオリティにミートできていなくても、リカバリーが可能
- エレベーターピッチで、相手とのすり合わせを重ねることも効果的
以上です。
この記事が、スピードとクオリティのバランスで悩むビジネスパーソンの一助になれば、これ幸いです。