この記事では、ビジネスパーソンであれば必ず意識するべき、仕事の前提条件と制約条件について解説していきます。
仕事でも日常生活でも、我々は誰しもなんらかの前提や制約条件に沿って動いているものです。
例えば、朝は7時に家を出れば、7時30分の電車に間に合うから、会社の始業時間に間に合うだろう、というような朝のルーティンは、会社は9時に始まるという「制約」があり、電車が7時30分ぴったりに到着するという「前提」があるからです。
そして、我々はプロセスに慣れてくると、いつのまにかその制約や前提そのものを忘れてしまっていて、「電車が時間通りにこない」というような「前提が崩れた時」に、改めて前提の存在を思い出すのです。
仕事でも同じことが起きます。我々ビジネスパーソンは、慣れてしまうことで、時に仕事の前提条件や制約条件を見失ってしまうことがあります。
だからこそ、意識的にその仕事の前提条件や制約条件に着目し、「それは本当?」と疑問を投げかける必要があるのです。
そして、前例にとらわれない人やイノベーションを起こす人というのは、そういった前提や制約を常に意識して見ることができて、それを取っ払うことができる人なのではないでしょうか。
それでは、始めていきましょう。
前提条件のたとえ話:姉と妹のオレンジの取り合い

まず、わかりやすい例え話として、姉と妹のオレンジの取り合いの話を取り上げてみます。
学校から帰ってきた姉と妹が1つのオレンジを巡って喧嘩をしています。
どちらも譲らないので、母親はオレンジを半分に切って、姉と妹に渡します。
妹の方は早速、オレンジの皮をゴミ箱に捨てて、オレンジを嬉しそうに食べ始めます。
一方で姉の方は、オレンジの中身には目もくれず、オレンジの皮を使ってマーマレードを作り出したのでした。
母親は、「なぁんだ、二人ともオレンジを食べたかったわけじゃなかったのね。」と二人に言ったのでした。
実はこの話は、対立(コンフリクト)マネジメントの事例としてよく使われるので知っている方もいたかもしれません。
キーポイントは、思い込み(前提)です。
母親は、姉と妹の両方ともがオレンジを食べたいと思い込んでいたのです。
今までも姉と妹で果物を食べたいと言い合いになることが何度もあったので、その度に半分に分けていました。だから、これまでの事例と同じように、またオレンジを食べたいと喧嘩しているのね、と母親は思い込んでいたのです。
これは我々のビジネスシーンでも頻繁に見かけることだと思いませんか?
あの人はこう思っているだろう、、、だから、こうしよう。
今まで起きてきた問題と同じだろう、、、だから、こうしよう。
マニュアルに沿って対応すれば大丈夫だろう、、、だから、こうしよう。
なんでもかんでも確認していたら時間が足りないのも事実です。だからこそ、我々ビジネスパーソンは、これまでの知識や経験に基づいて前提を置いた上で仕事を進めます。しかも、それを無意識に、です。
そういった前提条件で結果的にうまくいくケースもあるでしょう。
しかし一方で、時に個人の勝手な思い込みになっているケースもあり、それが本質的な解決策やイノベーティブな解決策を隠してしまっていることもあるのです。
前提条件・制約条件の意味とその違いとは?

せっかくなので、もう少し前提条件とは何なのか?ということを深堀りして行きましょう。
前提条件の意味・定義とは
goo国語辞書では、「前提」とは、「ある物事が成り立つための、前置きとなる条件」と定義されています。
また、プロジェクトマネジメントでは、「前提条件」とは、「計画を立てるにあたって、証拠や実証なしに真実、現実、あるいは確実であると考えられた要因」と定義されています。(参照: PMBOK)
つまり、「前提条件」とは、何かの計画を立てたり、何かを意思決定する時に、「証拠や実証はないものの、信じられていること」だと言えます。
例えば、先ほどの姉と妹のオレンジの取り合いで言うと、母親が本人に確認もせずに「この子達はオレンジが食べたいと言っている」と信じてしまうことです。
ビジネスシーンでよくある事例として、担当者はできないと言っていても、その担当者の上司に聞いてみたら、担当者の思い違いでできないと言っていただけだったとか(もちろん、逆のパターンもあります)、
新規プロジェクトにアサインしようとしていたメンバーが、現行プロジェクトの問題解決で手一杯のためアサインできなくなったとか、
信じていたものが実際には違ったというのは、みなさんもよく体験されていることではないでしょうか。
制約条件の意味・定義とは
goo国語辞書では、「制約」とは、「ある条件や枠をもうけて、自由な活動や物事の成立をおさえつけること。また、その条件や枠。」と定義されています。
また、プロジェクトマネジメントでは、「制約条件」とは、「所定のコースに沿って活動する、または活動しないことに対して制約を受ける状態、性格、意識」と定義されています。(参照: PMBOK)
つまり、「制約条件」とは、何かの計画を立てる時は、何かの意思決定をする時に、「動かせない枠や課せられた手枷のこと」を言います。
例えば、プロジェクトであれば、承認された予算、決められた納期、要求されている成果物の品質基準、取引先との契約などです。
他にも、我々の日々のビジネスでいえば、会社法が該当しますし、業界によっては建築基準法や薬事法といった法律も制約条件です。
前提・制約条件を取っ払うのが戦略、条件内で効率化を目指すのが戦術。

プロジェクトマネジャーをやっていた時に、戦略と戦術の違いについてよく考えることがありました。
そして、私がたどり着いた考えは、
戦略とは前提条件や制約条件という枠組みを考えることであり、
良い戦略とは、誰もが置くであろう前提条件を壊し、外せないと思い込まれている制約条件を取っ払っうことで、プロジェクトの価値を高めるシナリオである、というものです。
制約条件というのは、一見すると変更できなそうですが、やりようによっては変えることもできます。
例えば、以下の記事で、プロジェクトリーダーNさんがアメリカとのアライアンスパートナーとの契約条項を交渉の末にうまく改変し、プロダクトに致命的な影響を与える問題を解決した記事を書きました。
これも制約条件をうまく取っ払ったケースです。
一方で、既存の前提条件や制約条件を踏まえて、どうしたら仕事が効率化できるか考えるのは、戦術です。
他の言葉でいえば、オペレーションです。
マニュアルや過去の事例に基づいて、仕事を早く捌ける人は、オペレーションが早いというのが正確です。
一方で、本当に仕事ができる人は、前提条件や制約条件を疑い、そもそもの仕事の仕組み自体を変えてしまいます。
そして、その結果、何千人のオペレーションをする人の効率化を達成してしまいます。
大事なことは、以下の2つの疑問を常に持つことです。
- その制約条件は、本当に動かせないのか?
- その前提条件は、誰かの思い込みじゃないのか?
まとめ: 前提と制約を疑うことが、良い戦略を作るコツである

私は現在(執筆時2020年12月)、アメリカの会社で働いているのですが、最近の事例でいうと、過去に買収した会社の法人会社Aを潰して、既存の法人会社Bに統合させるという動きがあります。
買収後も法人会社Aのもとで様々なビジネスは続いてきた訳なので、社外の何百社もの取引先との契約は法人会社Aに残っています。そのため、様々な購買プロセスや会計システムもその法人会社Aとして手続きがされてきていました。
こういった中で、どのようにして、またどんなタイミングで、法人Aから法人Bに契約を移すかという話を、法務、購買、ビジネス部門、会計、税務、ファイナンスで議論しているのですが、その中の話は、様々な前提条件や制約条件が複雑に絡み合っています。
そして、時に、制約条件だと思っていたものが実は制約ではなかったとか、隠れた前提条件が見つかったとか、そういうことが多々起きています。
既存の制約条件と前提条件の範囲内でのオペレーションを考える前に、まずは、この制約と前提を取っ払えないか考えることが必要であり、だからこそ、先に述べた2つの疑問がとても重要なのです。
- その制約条件は、本当に動かせないのか?
- その前提条件は、誰かの思い込みじゃないのか?
イノベーションを起こしたり、これまでにない変化を起こせる人は、日々の仕事から前提や制約を疑ってみることができる人です。
あなたの今の仕事では、どんな制約条件や前提条件がありますか? または隠れていると思いますか?
それを意識的にみていくことで、これまでにない新しい戦略が生まれてくるのではないでしょうか。