『プロジェクトマネジャーたるもの、ストーリーテラーであれ』
これは私がプロジェクトマネジャーをやっていた時の上司の言葉です。当時はどういうことか実感を持てていなかったのですが、最近、特にこの考え方が重要だと思うようになりました。
というのも、今の私の主な業務内容は、企業の意思決定に必要な数字・データ・情報を加工・編集して、プロジェクトリーダーやシニアマネジメントに提供するというものなのですが、その時に重要になってくるのがストーリーだと感じるからです。
そして、このストーリーを考える力というのは、どんな仕事にも求められるものだと思います。
みなさんは、日常の業務でストーリーということを意識されているでしょうか?
この記事では、ビジネスにおけるストーリーについて考察していきたいと思います。
ストーリーテラーとは
ストーリーテラーは、その字のごとく、Story(物語)をTeller(話す者)です。つまり、色々な物事を筋道をたてて、わかりやすく話す人です。
ググって見るとわかりますが、ビジネス用語で使うよりも、主に小説や演劇、ドラマなどで使われる言葉と言えます。
とは言え、ビジネスにおけるストーリーテラーの意味も基本的に同じです。
上司曰く、『プロジェクトチームをリードし、マネージし、チームメンバーのモチベーションを向上させて、プロジェクトを成功させるためには、人の気持ちを動かすようなストーリーを自分の言葉で話せないとダメだ』と。
事例1:納期の大幅前倒しをお願いする時
例えば、開発中の商品の市場投入を前倒ししないといけないとき、あなたがプロジェクトチームを率いるマネージャーだったら、、、
商品の開発期間を前倒しするためには、プロジェクトメンバーが今よりも頑張って、それぞれが納期を短くしないといけません。
中には残業時間が増えて、精神的・体力的にも追い込まれる人が出て来るかもしれません。また、プロジェクトメンバーの中には、時短をとっていて、あまり無理ができないママさんもいるかもしれません。
そんな様々な背景を持つチームメンバーに対して、どんな話し方をすれば、やる気になってくれるか?
それには、プロジェクトマネージャーのあなた自身がやらされ感で仕事をしていたら、まずプロジェクトメンバーはやる気になりません。
一方で、自分だけやる気に満ちていて、『つべこべ言わずに、俺についてこい!』と言うだけではうまく行かないのも事実です(もちろん、これが通用する場合もありますが、チームメンバーが増えれば増えるほど、ゴリ押しは通じなくなります)。
もちろん、権力を振りかざして人を動かす方法もありますが、すぐに破綻します。
どうやったら、人が動いてくれるか?
そこで必要なのが、ストーリー、です。
例えば、その商品がどれだけ世の中から切望されているのかを客観的なデータを持ってチームメンバーに語るもよし、
自分がその商品にかける想いを、心の底から話して、『どうかみんなの力を貸して欲しい』と本気でメンバーにお願いをするのもよし、
要するに、プロジェクトメンバーが納得して動こうと思えるような話ができるか? そんな話し手(ストーリーテラー)になれるか?
それが仕事をする上で大事です。
実は、この納期短縮の事例は、私がプロジェクトマネージャーをやっていた時の実例です。
結果的に、プロジェクトメンバーに頑張ってもらって納期短縮を達成できたのですが、当時の私は心からプロジェクトメンバーを動かせるようなストーリーは語れていなかったように思います。
結局は、色々と反発がある中で、現場の担当者と何度も泥臭く協議をして、1日単位でタイムラインを縮めていくという物理的なアプローチでなんとか達成した、と言う状況でした。
今思えば、人を動かすストーリーを語って、チームが自律的に納期を短縮していくようなアプローチが取れたらもっとよかったと反省しています。(これがまたとても難しいのですが)
事例2:与えられた予算をオーバーしてしまった場合
もう一つ違った事例でストーリーテラーを考えて見たいと思います。
例えば、あなたがプロジェクトマネジャーだとして、今年度予算を超過して費用が発生してしまった場合・・・
プロジェクトマネジャーが想像しにくかったら、一担当者でも結構です。とにかく、自分に許されている予算よりも使い込んでしまった場合です。
まず、予算オーバーと言うのは揺るぎない事実です。
人によっては、上司に怒られることを承知で、漢らしく腹を括って、そのまま事実を素直に上司に報告するかもしれません。(上司によっては、有効な打ち手かもしれませんが・・)
でも、例えば、こんな考察結果を添えて報告したらどうでしょうか。
『今年度のプロジェクト予算を超過してしまいました。ただ、これは予想以上にプロジェクトの進捗が良かったためで、そのために費用が前倒しで発生したからです。
今回の事実は一方で朗報でもあります。つまり、このままのペースでプロジェクトが早期完了すれば、むしろ人件費が浮き、最終的なコストは当初計画よりも安上がりになる可能性があります。』
いかがでしょうか。
今年度のプロジェクト予算を超過したという事実は同じです。
しかし、その事実を様々な角度から分析し、どのように解釈するか?は何通りもあります。
客観的な事実をどのように味付けして、最終的な料理に仕立てあげるかは、あなたの腕次第ということです。
そのためには、『ストーリーテラーであれ』です。
つまり、客観的な事実に対して、あなたは何を見たのか? 何に注目したのか? どんな分析、解釈をしたのか?
そして、あなたは事実に基づいて、相手に何を伝えたいのか?
つまり、どんなストーリーを話したいのか?そのストーリーによって、相手にどんな行動をとってもらいたいか?
ストーリーテラーとは、客観的な事実をもとに、人を動かすストーリーを作れる人、なのではないでしょうか。
ストーリーを考えて日々の仕事に取り組む
では、具体的に、どのように日々の業務でストーリーを考えていくか?
例えば、私は上司やプロジェクトチームメンバーに数字やデータを出して、と言われた時は必ず『その数字とデータ』で相手が何をしたいのか?を、確認するようにしています。
相手がどんなストーリーを作ろうとして数字やデータを欲しているのか? これを聞かずして、適切な数字やデータは出せないからです。
もちろん、実際に数字を出してみたら、当初考えていたストーリーと違った、というのは良くあるケースです。
そういう場合は、『当初のストーリーと違ったのはこういう点で、それを指し示しているのがこの数字てす。この数字を踏まえると、実はこういうこと(ストーリー)なのではないでしょうか?』というこちらからの提案ができるわけです。
つまり、ストーリーテラーとは、客観的な事実を最大限に活用しながら、全体として筋の通った提案内容を作り、周りの人の気持ちを動かすことができる人、ということではないかと思うのです。
数字やデータは単なる情報に過ぎません。そんなものは、人間ではなくても、AIやロボットでも出せるわけです。
大事なのは、事実からどんなストーリーを見出すか?
周りの人の気持ちに訴えて、行動を起こすことができるストーリーを語れるか?
そういうことではないかと思います。
どんな仕事にも、もちろん雑務にだってストーリーはあるはずです。
明日の業務から、ストーリーテラーを意識してみてはいかがでしょうか?
モチベーションとは、命令や指示で生み出せないものである。
- カルロス・ゴーン -(ブラジル出身の実業家、ルノーCEO、日産自動車CEO / 1954~マネジメントって、理屈だけじゃダメなんです。いくら正しいことを言っていても、みんなが共鳴しなければ前には進めない。
- 平尾誠二 -(日本の元ラグビー選手、元ラグビー日本代表監督 / 1963~)