パフォーマンスが高い組織やチームの共通点とは、何でしょうか?
色々な要素はありますが、その1つとして、チームメンバーに『人に何かをして貰おう』という自己中心的なタイプがいない(または少ない)という点を挙げてもよいかもしれません。
ペンシルバニア大学ウォートン校教授のアダム・グラント氏は、対人関係において、『人に何かをしてもらう』というスタンスをとる人を「テイカー(Taker)」と呼び、チームマネジメントや人材マネジメントでの留意点に挙げています。
この記事では、実際に私の隣のチームで起きた悲劇を事例にしつつ、ギバー・テイカー分類に基づく考察をしていきたいと思います。
【悲劇】腐ったリンゴが隣のチームに入った時、何が起きたのか?
数年前の話です。私の隣のチームに、とあるキャリア入社の女性が入ってきました。
一言で言うと、腹黒いタイプで、表向きと裏向きの顔を持つタイプでした。そして、隙あらば、人の手柄を自分のものにして、対外的なアピールをどんどんしていく人でした。
例えば、チームメンバーが思いついたアイデアがあれば、それを使って一人で進めて、自分の手柄として上司に報告したり、
非公式の場での内緒の話だったにも関わらず、公式な場で『あの時、ああ言っていましたよね?』という言質にしたりと、信頼を崩すことが得意なタイプでした。
その女性が来るまでは、そのチームは、いわゆる、農耕民族的な和気藹々としたチームで、チームワークを大事にして、難局も協力して乗り切ろう、という風土でした。
ところが、その女性がチームに加わってしばらく経ってから、続々とチームメンバーが疲弊していき、チームの生産性は極端に落ち、不平不満が蔓延するようになりました。
そして、その弊害は他部門にも広がり、その腹黒女性のおかげで、組織vs 組織に発展したトラブルもありました。
こういった問題が起きた時はチームリーダーがすぐに手を打てばよかったのですが、そのリーダーはマネジメントが得意ではなく、静観を続けました。
その結果、チームメンバーはメンタルで問題を抱え、派遣社員は辞めていきました。
最終的には、その女性が別の組織に異動になったことで、徐々にチームの生産性は改善していくことになるのですが、たった1人の存在が組織を壊滅に至らしめる様子を間近で見て、当時は恐怖を感じたものです。
【TED talk】アダム・グラントのギバー・テイカー分類が面白い
『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代/三笠書房(監訳:楠木建)』の著者であり、ペンシルバニア大学ウォートン校の教授であるアダムアダム・グラント氏は、人は3つのタイプに分類される、と言っています。
- ギバー(Giver): 相手中心の考えで、基本的なスタンスが「人に与える」「人に何をしてあげようか」と考える利他的なタイプ。
- テイカー(Taker): 自分中心の考えで、基本的なスタンスが「人から奪う」「人に何をしてもらおうか」と考える利己的なタイプ。
- マッチャー(Matcher): ギブ&テイクの考えで、「してもらったから、相手に返してあげる」というバランスタイプ。
この分類に基づくと、先ほどの私の隣のチームの腹黒女性は、まさにテイカーの典型例と言えます。
では、この中で、どのタイプが最もビジネスで成功しやすいと思いますか?
アダム・グラント曰く、それはギバーとのことです。
そして、テイカーは最初は結果を出すのですが、長い目で見ると、うまくいかなくなるようです。
もし、時間があれば、ぜひ以下のTED talkを見てもらうと良いのですが、時間がない人はこの先の要約と考察を読んでいただければ、十分に内容が掴めると思います。
では、始めましょう。
それぞれの職種で最低の成績だったのはどのタイプ?
アダム・グラントは、何十もの組織、何千もの人々を観察してきました。例えば、エンジニアたちの生産性を測ったり、医学生の成績表を見たり、営業マンの売り上げを調べたりもしたそうです。
その結果、意外な事実が分かりました。
それぞれの職業において、最低の成績を出していたのはギバーでした。
例えば、仕事が一番遅かったエンジニアは、見返り以上の頼まれごとをこなすあまり、自分の仕事に手が回らなかった人でした。
最もギバー指数が高かったセールスマンは、『クライアントが本当に大切なので、うちの粗悪商品は売りたくないんです』と言い、他社製品を勧めていたのだそうです。
たしかに言われてみれば、私の会社でも、とてもいい人で『常に誰かに何かをしてあげたい』という精神を持った人、つまりギバーがいます。
ただ、要領があまり良くない人は、大抵、パンクして、仕事ができない烙印を押されていることが多い印象です。
というよりも何も、過去の私がまさにそのタイプで、喜んで頼まれごとを抱え込んで自滅していました。(同期入社の中で、最低の評価だったと思います)
組織の中で最も成績が良いのは、どのタイプ?
それぞれの組織での成績ビリはギバーでした。では、成績トップは誰なのでしょうか?
テイカーは、たしかに最初は成績が伸びるかもしれませんが、『目には目を』がモットーかつ大部分の人数を占めるマッチャーに叩かれて、沈没していきます。
では、成績トップはマッチャーなのかというと、これも違います。
どの職種でも、どの組織でも、成績トップにいたのは、これまたギバーなのでした。
要するに、ギバーのタイプは、成績トップにも、成績ビリにもなり得るわけです。
成績が低いギバーの特徴は、自分のキャパシティーを知らず、また仕事のやり方が下手なタイプです。
マインドセットは素晴らしいものを持っているのに、それを実現するための業務遂行能力がまだ足りていないケースです。
こうなると、自滅してしまい、業績が上がりません。
一方で、業績トップのギバーは、この業務遂行能力が伸びてきて、マインドセットを体現できている状態です。
こうなると最強です。どんどん人のためになることを、高速で実現していくわけですから、業績がトップにならないはずがありません。
つまり、ギバーは、大器晩成型であり、大いなる成長ポテンシャルを秘めているわけです(ただ、それが花開かないと、なかなか業績が上がらずに苦労するのですが)
ギバーを活かし、組織やチームの生産性を高めるために留意するたった1つのこと
チーム全体の生産性を高めるコツは、ギバーが働きやすい環境を作ることです。
ギバーが気持ちよく働けていれば、自然にチームや組織は、活発なコミュニケーションが生まれていきます。
Googleのリサーチチームは、チームの生産性を高める重要な要素として「心理的安全性の高さ」を報告しています。
Google のリサーチチームが発見した、チームの効果性が高いチームに固有の 5 つの力学のうち、圧倒的に重要なのが心理的安全性です。リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い、という特徴がありました。
つまり、なんの恐れもなく、コミュニケーションができている状態が、チームの生産性を高めるということです。
逆に言えば、何かをすると自分が搾取されるとか、誰かにいいように使われるとか、そういった心配事がチーム内に蔓延すると、組織の生産性は上がらなくなります。
ここまで読んだらお気づきと思います。
そうです、テイカーの存在が、チームや組織内の心理的安全性を壊し、生産性を著しく落とすのです。
アダム・グラントは、テイカーがチームにもたらす影響について、以下のように述べています。
誰をチームに迎えるかをよく考えて決めることです。 1人のテイカーがいると、1人のギバーがもたらす好影響の2倍から3倍の悪影響が生じることが分かりました。
つまり、チームメンバーを考える時に留意するたった1つのことは、ギバーをチームに入れないということなのです。
例えば、もしあなたが人事部の採用担当者ならば、即戦力や専門スキル、成長ポテンシャルだけではなく、その人がテイカーではないことを見極めることも重要なポイントになるでしょう。
もしあなたがプロジェクトマネジャーや機能部門の部長・課長であれば、自分の組織に異動させる部下がテイカーではないことを確認しておくべきです。
ギバーやテイカーを見極める方法とは?
生産性の高いチームや組織を作るためには、ギバーを増やしつつ、テイカーを排除することです。
では、どうやってギバーやテイカーを見極めればいいのでしょうか?
ギバーの人は、なんとなく、明るくて人当たりが良さそうなイメージがありますが、実際はそうとも限りません。
私の隣のチームにきた腹黒女性は、一見、明るくて人当たりがよいので、テイカーだと気づかない人もいたと思います。
アダム・グラントは、人当たりの良さとギバー・テイカーの関係を調べた結果、以下のように報告しています。
私はずっと人当たりのいい人がギバーで 、人当たりの悪い人がテイカーだと思い込んでいましたが、データを集積して愕然としました。これらの特性には全く何の相関性もなかったのです。
こんなことを聞くと、ますます怖くなってきませんか?
明るく、人当たりがよいと思って安心して採用したら、実はテイカーでした、という結果があり得るということです。
アダム・グラント曰く、こうならないように、テイカーかどうかを面接で見抜く質問があるようです。
その質問とは、
「自分のおかげでキャリアが劇的に向上したと思う人を4人挙げてください」
というものです。
この質問に対し、テイカーは本人よりも影響力のある人の名前を挙げるようです。というのも、テイカーは上には媚び、下を虐げることに長けているためです。
一方で、ギバーは自分よりも地位が下の人やあまり影響力のない人を名前にあげるようです。
ギバーの人は、困っている人を助けたいので、地位が低い人や影響力の少ない人に『与えてあげたい』と思うからです。
そう考えると、実は身分け方はシンプルで、その人が、自分の出世や評価に関係のない人に対して、普段からどんな態度をとっているかを見れば、一目瞭然だと思います。
例えば、赤の他人であるレストランのウェイターやタクシーの運転手にどんな態度で接しているか、などです。
まとめ:ギバー・テイカーの視点で、チームの生産性を見渡してみる
長くなりましたので、ここまでの内容をまとめます。
- アダム・グラントによれば、人はギバー、テイカー、マッチャーの3つに分類できる。
- ギバーは『人に何を与えようか』と考え、テイカーは『人から何を貰おうか』と考える。マッチャーはバランス型で『貰ったら、お返しする』と考える。
- どの組織でも、業績が一番低いのも、業績が高いのもギバー。『人に与える』という行動がその人の本業にうまくマッチすれば、業績はついてくる。
- テイカーがいるとギバーはうまく働けず、チームの生産性は著しく落ちる。テイカーをチームに入れないように注意すべき。
- テイカーを見分けやすい質問は『自分のおかげでキャリアが劇的に向上したと思う人を4人あげてください』というもの。これで本人よりも影響力がある名前があがればテイカー。
さて、あなたの周りのチームメンバーは、ギバー、テイカ―、マッチャ―のどれに近かったでしょうか?
そして、あなたのチームの生産性は高いと言えるでしょうか?
あなたのチームは、ギバーが活き活きと働ける環境でしょうか?
もし、あなたのチームやあなたの隣のチームの生産性が上がっていなかったとしたら、どこかにテイカーが潜んでいるかもしれません。
以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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